[河原潤のITストリーム]

トヨタとセールスフォースが提携。「トヨタフレンド」で注目したい3つのポイント:第35回

2011年5月25日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

トヨタ自動車とセールスフォース・ドットコムが提携を発表しました。自動車産業とクラウド(ソーシャル)技術の融合の先には、どんなクルマ社会が描けるのでしょう。3つの観点で考えてみたいと思います。

 既報のとおり、トヨタ自動車とセールスフォース・ドットコム(SFDC)は5月23日に都内で共同発表会を開き、両社の提携により、SFDCの企業向けSNS「Salesforce Chatter」をベースとしたクルマ向けソーシャルネットワーキングサービス(SNS)「トヨタフレンド」を構築すると発表しました。新サービスは、2012年にトヨタが市販予定の電気自動車(EV)とプラグイン・ハイブリッド車(PHV)において投入される予定です。

 トヨタは2011年4月にマイクロソフトとの提携を発表し、トヨタの顧客向けテレマティクス・サービス提供基盤として「トヨタスマートセンター」をWindows Azureプラットフォーム・ベースで構築するという計画を披露して話題を呼んだばかりです。トヨタがクラウド第2弾と呼ぶ今回の提携発表は、大きく3つの観点から示唆的だと感じましたので以下にまとめてみます。

EV時代に進化が加速するカーテレマティクス:SNSが人とクルマをつなぐ

 2010年12月に日産自動車初のEV「リーフ」を取り上げた時にも書きましたが、EVの時代を迎えてクルマとITの関係が急接近し、融合に向かう中で、自動車メーカー各社の発表が相次いでいます。このうち両者のかかわりが最も直接的なテレマティクスについては、リーフで用意されたサービスが最先端と言える内容だったのは上の回でお伝えしました。そして今回、トヨタがテレマティクス・サービスの目玉に持ってきたのはSNSです。

 トヨタフレンドでは、人とクルマ、販売店、メーカーがソーシャルネットワーク上でつながり、カーライフにまつわるさまざまな情報が“つぶやき”のかたちでやりとりされます。最大の特徴はクルマ自身がSNSに参加している点で、発表会では、クルマがバッテリ残量や電費など、自車のコンディションに関するメッセージをつぶやいたり、ドライバーのつぶやきにディーラーのスタッフが対応したりといった具体的な利用シーンがデモで紹介されました。

 クルマとドライバーの対話を実現する試みは、かなり以前から行われてきました。代表的なのが、ご存じカーナビゲーション・システムのルート案内です。また初期には、例えば航続距離が一定に達するとダッシュボード上にコーヒーカップのランプが点灯して休憩を促すといったシンプルな機能があったのを憶えています。

 では、SNSは人とクルマの対話、コミュニケーションをどう変えるのでしょうか。来日して今回の会見に臨んだSFDC会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏は「SNSならではの透明性、オープン性を、人とクルマのコミュニケーションに持ち込んだのがトヨタフレンドである」と説明しています。トヨタが顧客のカーライフにまつわるあらゆる情報をオープンにし、顧客が必要なときに必要な情報を得られるような仕組みがそこに実現しているのだとしたら、確かに従来の、いかにも機械的な対話とは一線を画すものになるでしょう。トヨタフレンドを舞台にやりとりされるソーシャルコミュニケーションが、ドライバーや同乗者のカーライフに実際どのような影響を与えるのか、興味を引かれるところです。


写真1:トヨタフレンドの利用シーンデモでは、ソーシャルネットワーク上で人とクルマ、販売店、メーカーがつながるさまが示された。SNSは、クルマの世界をどのように変えていくのか

SFDCが推進する、SNSとモビリティの領域拡大:クルマの世界にも「Cloud 2」を

 トヨタフレンドは、スマートフォンやタブレットPCなどのモバイル端末を通して利用します。また、トヨタの顧客専用のSNSでありながら、TwitterやFacebookなどのパブリックなSNSとも連携し、家族や友人、同僚などとのコミュニケーション・ツールとしても利用できるようになっています。

 SFDCにとって、今回のトヨタとの提携は実に大きな意味を持つものです。もちろん世界有数の大手自動車メーカーとの提携自体が大きな話なのですが、もう1つは、2009年11月にChatterを発表して以降、注力を続ける企業向けSNS分野と、2010年9月にそのモバイル版をリリースし、やはり注力するモビリティ分野のさらなる拡大です(ベニオフ氏は、現在世界中で起こっている両分野での活発な動きを「Cloud 2」と呼んでいます)。

 「今やクルマはモバイルデバイスととらえられる。この数年で起こったSNSとモビリティ分野での大きな進展・変化にクルマも対応していくのは必然の流れだ」。ベニオフ氏はそう語り、iPhoneやiPad、Android端末を使って世界中の人々がTwitterやFacebookなどのSNSを使いこなすCloud 2のムーブメントをクルマの世界にも波及させていく意気込みをアピールしました。

ベンチャー精神に立ち返るトヨタの戦略:諸課題を乗り越える変革を生むために

 一方のトヨタ自動車代表取締役社長、豊田章男氏の言葉を聞くに、提携とサービス発表にあたっての同社の意気込みもまた、一テレマティクス・サービスでの戦略的発表にとどまるものではないようです。

 「ソーシャルネットワークの中にクルマも参加するというベニオフ氏の発想に共感し、今回の提携が実現した。これまでの『走る』『曲がる』『止まる』に『つながる』が加わるわけで、トヨタのクルマ作りはこれから大きく変わっていくことになる」と豊田氏。東日本大震災でも大きな力が発揮されたソーシャルコミュニケーションによって、多くの人々の関心を再びクルマの世界に引き寄せることが可能になる、と力説しました。

 2011年4月のトヨタとマイクロソフトの提携は、異業種とはいえ共にグローバルでの業界リーダー同士の協業であり、EV時代にクルマとITの世界が融合に向かう中で十分想定しうる戦略発表だったと言えます。では、今回なぜトヨタはSFDCをパートナーに選んだのでしょうか。豊田氏はこう説明しています。「SFDCはクラウドベンダーとしてすでに大手ではあるが、(ベニオフ氏との親交を通じて)今もベンチャースピリットを保ち続けている企業だと確信した。今のトヨタはベンチャー的な仕事の進め方も学ぶことが重要だと考えている」

 若者を中心とした近年の深刻なクルマ離れ、低炭素社会に適合しうるゼロエミッションビークルへの移行、そして日本ではここにきて不安が一気に高まった電力危機とエネルギーの見直しの問題。さらに加えて、近年では日本車の世界市場での地位低下が顕著です。今後さらに加速するクルマとITの世界の融合は、こうして山積みとなった自動車業界の諸課題に対して、どのような解決策をもたらすのでしょうか。動向に引き続き注目です。


写真2:トヨタの大型ショールーム「MEGA WEB」内の特設ステージに立つ豊田章男氏とマーク・ベニオフ氏

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