[木内里美の是正勧告]

料理から学ぶソフトウェア開発の極意

2011年10月17日(月)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

イタリアンの名店アルポルトのオーナーシェフである片岡護さんを囲む料理教室を体験する機会があった。筆者が参加している異業種交流の会があって、そのメンバーのひとりの粋な計らいで会のメンバー向けに特別に開催していただいた。もともと食にも料理にも興味があり、見様見真似と試行錯誤で気が向けば簡単な家庭料理くらいは作るが、本格的に「料理を学ぶ」のは初めてだった。

片岡シェフ(右)と。料理だけでなく、教え方もうまい
写真1:片岡護シェフ(右)と筆者。料理だけでなく、教え方もうまい

 イタリアンの名店アルポルトのオーナーシェフである片岡護さんを囲む料理教室を体験する機会があった(写真1)。筆者が参加している異業種交流の会があって、そのメンバーのひとりの粋な計らいで会のメンバー向けに特別に開催していただいた。

 もともと食にも料理にも興味があり、見様見真似と試行錯誤で気が向けば簡単な家庭料理くらいは作るが、本格的に「料理を学ぶ」のは初めてだった。

 メニューは鶏モモ肉の香草風味ローストと、スパゲッティアマトリチャーナというトマトソース系のパスタの2品。レシピとメモを片手に、まずは片岡シェフの実演と説明を聴く。食材の解説を交えながら手際よく調理が進む。トマトソースひとつをとっても玉ねぎとニンニクをとろ火で1時間も炒め、トマトと調味料とバジリコを加えて更に30分も煮込むのである。それを丁寧に裏漉して出来あがる。下拵えが半端ではないのだ。

 料理は着々と進んで2品が出来あがった。盛り付けも美しく食欲をそそる。引き続きメンバー各自の実践だ。完成品のイメージをしっかり持って、頭の中で手順を確認する。よく聴いていたつもりでもメモを見ないと細かな手順を忘れている。2品を同時に仕上げなければならない。調理台に向かうとなんだかとてもワクワクしてきた。

料理とソフト開発は似ている

 料理らしい料理を学んだのは初めてだったが、有り合わせの食材で家族の食事を作ったりする時、常々感じていたことがある。料理はとてもクリエイティブな行為であることだ。作る料理を決めて食材の買物をする。これも楽しい。時には冷蔵庫や材料庫にある食材を眺めながらイメージを作り料理を決める。レシピを考え(時に調べて)、数品を同時に仕上げるための手順をシミュレートをする。下拵えを始める。下拵えをしながら先の工程を考えている。プロセスはゲームのようだ。

 作りながら食器を整え使い終わった調理器具を洗い片付ける。これが順調にいくと嬉しい気分になる。手順を間違えると手戻りや修正が必要になって慌てる。大げさではなく時間との勝負がある。それがチャレンジ心を高める。自分のためにではなく誰かのために作ることにモチベーションがある。そして結果がすべてだ。タイムリーに仕上がり、美味しくなければ料理ではない。美味しそうに食べてくれている姿を見る時が至福の時だ。

 ソフトウェア開発は料理とよく似ている。何のために何を作るのかその目的が明確でなければならない。料理が素材に魂を入れていくように、ソフトは情報技術に魂を入れていく。どちらも下拵えをしっかりしなければ、時間通りに出来の良い作品は仕上がらない。レシピは料理を知るものが経験を踏まえて作った仕様書。ソフトも業務知識と経験から目的に整合する仕様書を作りあげる。料理は盛付けの見た目が大切であり、ソフトもユーザーインタフェースが大切だ。そしてどちらも本来ワクワクする仕事のはずである。

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