Citrix Cloud Vision 2012 Fallレポート Part3 現在、オープンクラウドという潮流は着実に大きくなってきている。多様なレイヤーに渡って多くの技術が生まれてきており、それらがエコシステムとして確立しつつある。この状況は、従来のようなベンダーロックイン型のクラウドに対して危機感を抱くユーザーが増加し、クラウド基盤の別の選択肢に対する新たなニーズが生まれてきたことの表れではないだろうか。「Citrix Cloud Vision 2012 Fall」の講演では、有識者によるオープンクラウドの現在の動向や、オープンクラウドの環境に適した仮想化基盤のあり方について解説が行われた。
着実にシェアが広がるオープンクラウド
IT活用の新たな形態として、クラウドコンピューティングは企業に広く受け入れられた。従来のオンプレミスシステムでは実現できなかったような柔軟性や拡張性が評価された結果であろう。ユーザー企業にとってクラウドは、より自由度の高いIT活用を可能にする基盤であるわけだ。
だが、そうしたメリットをスポイルしてしまう特性が、現在、多くの企業が採用しているクラウド基盤には潜在しているのだ。それは、特定ベンダーのクラウド基盤に統一することによるベンダーロックインという問題である。
このベンダーロックインという問題に捕らわれないためには、オープンなクラウド基盤を採用するという方法が、現時点でのベストの選択肢であろう。現在では、CloudStack、OpenStackといったIaaS管理基盤や、より自由なネットワーク構成を可能にするOpenFlowなど、オープンクラウドのエコシステムを構成する技術が次々と登場してきており、今や大きな潮流となりつつあるのだ。
「オープンクラウド入門」を著した国際大学GLOCOMの客員研究員、林雅之氏によると、オープンクラウドに求められる要素として、オープンAPIの実装、オープンソースの開発コミュニティの存在、オープンソースプロジェクトでの豊富な運用経験を有する組織や団体の支援などが挙げられる。現在、オープンクラウドを構成するクラウド基盤ソフトウェアやサービス群には、前述のCloudStack、OpenStack、OpenFlowのほか、オープンPaaSのCloudFoundry、OpenShiftなどが存在する。
林氏は、今後のグローバルマーケットにおけるクラウド基盤ソフトウェアのシェアの推移についてこう予測する。「ちょうどiOSとAndroidOSがこれまで辿って来た関係と同じになると見ている。現在はアマゾンウェブサービス(AWS)が大きなシェアを持っているが、この先CloudStackなどオープンソースベースのソフトウェアを多数のベンダーが採用してシェアを拡大していくだろう」
今やオープンクラウドの流れは、レイヤーを横断した連携へと移りつつある。そこには、オープンIaaSとオープンPaaSと組み合わせて差別化を図り、さらにOpenFlowで実現されるようなSDN(Software Defined Networking)との連携によって統合的にコンピューティング基盤を管理することで、自動化を含め運用の効率化を実現しようという狙いもあるのだ。
オープンクラウドのエコシステムを網羅
こうしたオープンクラウド基盤として注目されているのが、IaaSクラウド基盤の構築・管理を行うソフトウェア「Citrix CloudPlatform」である。CloudPlatformは、オープンソースの「Apache CloudStack」をベースに開発された製品である。このCloudPlatformを中核としてシトリックスは、オープンクラウドのエコシステムを網羅する多彩な製品群を提供している。
IaaSを構築・運用するには、数多くの機能が必要になる。サーバーやストレージ、ネットワークといったリソース管理やワークロード管理に加え、ロードバランシングや冗長化によって可用性を確保し、また、データの安全性を守るためにバックアップなども必要だ。さらに、ハイブリッドクラウドが進展する今日においては、業界標準のAPI(Application Programming Interface)への対応も必須であろう。
このような一連のIaaS構築・運用のための機能を提供するのが、CloudPlatformである。先述の機能群を網羅しているのはもちろんのこと、さまざまなユーザーニーズに応える機能を豊富に備えており、パブリッククラウド、プライベートクラウド、仮想プライベートクラウドといったさまざまなタイプのクラウドに適用することができる。
CloudPlatformは、同社のXenServerをはじめ、各社のハイパーバイザーにも対応しており、マルチハイパーバイザーのIaaS環境を構築可能だ。また、管理者向けのユーザーインタフェースのほか、エンドユーザーが日常的に使えるわかりやすいユーザーインタフェースを提供しており、「インスタンスの追加など、これまでIT部門やサービス事業者に頼むと数日かかっていた処理を、エンドユーザー自身で実行でき、ビジネススピードを加速できる」(北瀬氏)
さらに、クラウドサービス事業者向けのビジネス支援システム「CloudPortal Business Manager」により、アカウントとパートナーの管理、価格付けと請求といった課金機能、ユーザー管理、レポートなどの機能を提供する。
CloudPlatformは、米国の調査会社であるInfo-Techがクラウド基盤ソフトウェアの評価を行った「クラウド管理ソリューション市場におけるベンダー情勢分析レポート」において、最も高い評価を得ている。
このレポートは、CloudPlatformと同製品の競合となるクラウド管理ソリューションの計9製品を対象に、製品の機能、操作性、値ごろ感、アーキテクチャ、およびベンダーの存続性、戦略、対応範囲、チャネルについて評価した結果をまとめたものだ。
CloudPlatformは、多数の実績がある点、クラウド製品ポートフォリオが充実している点、UIがすぐれた操作性を備え、APIやCLIを備えている点などから「インフラ基盤上にクラウドを構築する際の最適な製品」として100という価値スコアを獲得、9製品中トップとして評価された。
クラウドの仮想プラットフォームとしての「XenServer」
CloudPlatformのほかにも、同社によるオープンクラウドのエコシステムの中で重要な役割を担うのが、サーバー仮想化ソフトウェア「Citrix XenServer」である。これは、オープンソースのハイパーバイザー「Xen Hypervisor」をベースにした製品である。
XenServerは、サーバー仮想化基盤やクラウド基盤としてはもちろんのこと、ネットワーク仮想化、デスクトップ仮想化の基盤としての用途を意識して強化されており、最新のXenServerは、仮想スイッチを備えOpenFlowでも使うことができるなど、先述のようなレイヤー間連携にも、いっそうの配慮がなされている。
XenServerの数ある優位性の1つに、適正でわかりやすいライセンスモデルが挙げられる。競合製品には、CPUごとのライセンスに加えて、仮想マシンのメモリー量のライセンスも必要となるものがある。シトリックス・システムズ・ジャパン マーケティング本部 プロダクト マーケティング マネージャー、北瀬公彦氏は、「複雑なライセンスモデルはコスト増はもちろんのこと、ベンダーロックインにもつながりかねない」と指摘する。
XenServerは、サーバー単位でのライセンスを採用しており、CPU数やメモリー容量がいくらあってもライセンス数が増えることはない。また、シトリックスでは、VMware vSphere環境(4.0、4.1)からXenServer環境への迅速かつ容易な移行を実現するツール「XenServer Conversion Manager」も提供している。このツールを使えば、複数の仮想マシンをまとめて移行することができる。
参考資料
以下より、米国の調査会社であるInfo-techによる調査レポート
「クラウド管理ソリューション市場におけるベンダー情勢の分析レポート」
をダウンロードしてご覧いただけます。
本レポートの内容
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市場情勢に関する概要
これまでの動向、今後の方向性 -
InfoTech社独自の価値スコアによる
各社の課題と強みについて -
各評価におけるバランスを考慮したうえで、
自社のニーズに最も適したベンダーを選択する -
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出典:InfoTech(research group)