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[ザ・プロジェクト]

日立製作所、6年を費やし取引先や人事などグループ940社の管理コードを統一

2013年3月21日(木)緒方 啓吾(IT Leaders編集部)

国内外に連結子会社約940社、約32万人の従業員を擁する日立グループ。連結経営の強化を目指し、2005年から取引先や財務、人事などグループ全社の主要な管理コードの統一を進めてきた。相当の時間をかけた裏側に、どんな工夫と苦労があったのか。現場の指揮を執った2人に聞く。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉

芝 正孝 氏
芝 正孝氏
日立製作所 IT統括本部 IT戦略本部 本部長
1980年日立製作所入社。生産技術研究に20年間従事した後、2000年より5年間、フラットパネル事業部門に異動しERPパッケージ導入などをリード。日立製作所本社に戻り、今回のコード統合プロジェクトの企画・立案を行った後、2006年より欧州CIOとして欧州のグループ会社のITガバナンスを指揮。2012年4月より現職。

 

芝 正孝 氏
青木 智穂氏
日立製作所 情報システム事業部 情報共有基盤システム部 部長
1981年日立製作所入社。以来コーポレート部門の業務アプリケーション開発と運用・保守を担当。2009年より日立グループ統一コード(G&Gコード)のグループ会社展開とコード管理センタの運営担当となり、合わせて情報共有プロジェクトの事務局の役割を担う。現在は並行してグローバル人財マネジメントのためのインフラ基盤を開発中。

 

─グループ企業を含めた、社員や取引先などの管理コードを一本化したと聞きました。日立製作所の規模となると、相当苦労されたんじゃないでしょうか。まずは、きっかけからお聞きします。

:ご存じの通り、日立グループは発電設備や新幹線などの社会インフラから、家電や部品まで幅広い事業を手がけるコングロマリッド(複合企業体)です。特に2000年以降は分社化を進め、グループ企業は国内外で約940社になっています。

─すごい規模ですが、何か問題が?

:はい。基本的に各社の自主性を尊重する風土なので、システム面も各社任せだったんですよ。ITインフラの話ではなく、グループのどの会社がどんな取引先を持ち、あるいは売り上げの推移がどうかなど、即座に把握できない状態だったんです。

かつては、それで問題なかったのですが、グローバル競争の中で勝ち残るためには、グループとしてコストを削減したり、人材を活用したりする全体最適を図らなければなりません。合理的な連結経営の実践が不可欠で、そのためにはITの全体最適が必要という考えが出てきたんです。

─その中で基本の1つである管理コードの不統一が問題になった。

:その通りです。財務や調達、人事といった管理コードをグループ内で統一していませんでした。一例を挙げると日立本社(コーポレート)だけでも、取引先などの企業マスターが54種類も存在しているような状態でした。

─なんで、54種類もあったんです?

:財務や調達など各システムで個別にマスターを管理していたからです。コーポレートの下には社内カンパニーや子会社など約40の事業部門があり、さらに数十の孫会社もあります。各社が同じような状況だとすれば、グループ全体では大変な数の企業コードが乱立していたことになります。

─連結経営以前に、維持管理も大変だ。

:ええ。各社の情報を集めて、分析するためには、いちいち手作業でデータを変換しなければなりませんからね。これでは到底、連結経営などできないということで、当時のIT統括本部長が音頭を取って、コード統一プロジェクトを発足させました。

組織作りからスタート
経営層と業務部門を巻き込む

電力や建設といった社会インフラから、民生機器まで、事業が多岐に渡る日立グループにおいて、グループ統一コード体系の整備が連結経営の鍵だった 電力や建設といった社会インフラから、民生機器まで、事業が多岐に渡る日立グループにおいて、グループ統一コード体系の整備が連結経営の鍵だった

─それはいつ頃の話ですか。

:2005年でした。まずはコーポレート内でコード統一の必要性を共有するため、議論の場を作りました。グループのCIOである副社長をトップにした「経営プロセス改革委員会」です。コーポレートの財務、営業、調達といった各部門長などが集まり、年2回、プロジェクトの方向性や予算について議論しました。

─IT統括本部が、ひな形を作り、各部門に遵守するよう伝えるのではなく?

:コード統一のようなテーマの場合は、IT部門だけがいくら引っ張っても周りがついてきません。各部門からすれば、日々の業務は何の問題もなく動いているわけですからね。そこでまずは問題意識を共有してもらい、皆が動ける環境を作ることが大事だと考えました。

─でも年に2回の委員会だと、なかなか進まない気もします。

:委員会の下に、コード統一を主導する2つの分科会を設置し、そこが具体的な活動を進めたんですよ。1つは「基盤構築分科会」。コーポレートの情報システム事業部長を中心に、コード統一に必要なシステムやツールを検討しました。もう1つが「ガバナンス分科会」。コーポレートの財務部長の下に、調達、人事、営業などの部門長を集め、どのコードを統一すべきか、どのように業務を改革するか、その効果をどうやって測定するかなどを議論しました。

─全てのコードを統一したわけではない?

:違います。重要なのは、何を実現できるのか。例えば会社コードや財務コード、通貨を統一すれば、データの変換作業が不要になるので、連結決算をスピードアップできます。しかし製品コードや部品コードを全社で統一してもあまり意味がありません。

─確かに、冷蔵庫と火力発電設備では使用する部品は違いますよね。

:おっしゃる通りです。グループ各社で作っている製品も、それらを組み立てるために使っている部品も全く違います。部品調達の最適化を別にすれば、全社的な意味での優先度は高くありません。今回は連結経営に必要なコードだけを取捨選択して、統一することにしました。

─最終的に統一することにしたのは?

:企業コード、財務コード(勘定科目)、人員コード、調達コード、それと国・地域、通貨や単位です。コーポレートの中で、各コードを主管していた部門が中心になって、新しいコードを策定しました。「日立グループ&グローバル(G&G)統一コード」と呼んでいます。

─何から着手しましたか。

: まず効果が見えやすい取引先情報などの調達コードから手を付けました。購買部門は以前からコードの統一を望んでいたので、率先して取り組んでくれると踏んだんです。コードの定義と並行して、マスター管理や収集したデータの蓄積、分析システムの構築も進めました。

─事業部門への展開は?

青木:先ほど述べた約40の事業部門に対して、「グループ経営に欠かせないので統一コードを付けて、提供す仕組みを整えてほしい」と依頼しました。その先の孫会社も同様です。

─ということは、各部門や各社のコードを一斉に統一コードに置き換えたわけではないということですか。

青木:ええ。既存のシステムに手を入れるのは、負担もリスクも大きいですよね? 何かあれば、業務に支障を来してしまいますし、Excelでマスターを管理している会社もあれば、ERPを使っているところもある。IT部門が存在するとも限りません。

そこで既存システムについては、統一コードさえ付けてくれれば実装方法は問わないことにしました。各社のコードと統一コードの対応表(変換テーブル)を作って対処してもいいし、既存のマスターに統一コードをサブキーとして追加しても構いません。各社の実情を聞きながら、対応策を提案することもありましたよ。

:統一コードを維持・管理するためのコード管理センタも、日本、中国、アジアに設置しました。企業コードの鮮度維持や問い合わせ対応などをここが担っています。

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