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[2020年を見据えた「グローバル企業のIT戦略」]

日本のクラウドはどこを目指すべきか:グローバル企業のIT戦略 第1回

2013年11月5日(火)入江 宏志(DACコンサルティング 代表)

日本市場では高評価なのに世界市場には通用しない製品やサービスを「ガラパゴス」と呼ぶ風潮が定着して久しい。日本の常識と世界の常識に大きなギャップが生まれている。同様のことは、企業のIT戦略や情報システムでは起こっていないとは断言できないのではないだろうか。こうした観点から、2020年を見据えた「グローバル企業のIT戦略」を、今回から何回かに分けて見ていく。第1回はクラウド市場(マーケット)を取り上げる。

 IT戦略における日本と世界の差異を見極めるためには、いくつかの観点が挙げられる。今回取り上げる、「市場」はその一つだ。このほかに、「スケールの差」や「ITのとらえ方の違い」「専門性への取り組み」「国民性」「組織」などがある。これらについては、次回以降、順を追って取り上げたいと思う。

IBMやOracleよりも外資系の雰囲気が漂う会社がある

 本題に入る前に、なぜ筆者がグローバルなIT戦略に触れられるのか、その背景をお話ししたい。筆者は、IT業界に入って早くも29年が過ぎた。米IBMと米オラクル(Oracle)という外資系企業に長く勤めたが、現在はディメンションデータ(Dimension Data)という少し変わった外資系企業に属している。

 ディメンションデータは、グローバルにICTサービスを展開する事業者だ。最近は、そのサービス内容も、いわゆるクラウド化に舵を切っている。日本法人の親会社はシンガポールにあり、グループ会社の拠点は南アフリカにある。ただし、株式は100%、NTTの持ち株会社が持っている。地球をぐるりと回って日本に戻ってくる感じだ。日本IBMや日本オラクルと比べても、筆者の経験の中では最も外資系の雰囲気が漂っている。

 具体例の一つが人材の多国籍化である。2年前に入社した時も、日本のオフィスに予想以上に多国籍のスタッフが働いていたので驚いた。中国や、韓国、インド、イギリス、アメリカ、オーストラリア、フィリピンなどの出身者が何の違和感もなく、日本のオフィスにいた。

 筆者はコンサルタントとして、シンガポールのオフィスのコンサルタント達ともチームを組んで仕事をする。入社2日目で有償コンサルテーションの現場に出たが、その時に出会ったのが、シンガポールから出張で来ていたスウエーデン出身の優秀なクラウドコンサルタントだった。

 その後も、セキュリティ関連のコンサルテーションでは韓国とオランダ、データセンター関連ではインドとマレーシア、ITSM(IT Service Management)ではオーストラリア、Microsoftソリューションではフィリピン、ID管理ではシンガポール、モバイルではドイツと、案件ごとに異なる国の出身者とチームを組んだ。

 これらのコンサルタントの全員が日本との時差が1時間しかないシンガポールのオフィスに在席している。そのためだろうか、IBMやOracleと比べ、多国籍度が高く感じるのかもしれない。

 現在の環境で得られるグローバルな情報は、これまでの経験で得てきた日本と世界の差とも違っている。日本市場だけを見ていては感じられない国内外の違いをできる限りお伝えすることで、日本企業が次の一歩を踏み出すための道標の一つになればと思う。

日本でSaaS市場が伸びない理由

 前置きが少し長くなった。早速、今回のテーマであるクラウド市場について見ていこう。

 「Cloud Computing」という言葉が生まれたのは2006年のことである。その後、IaaS(Infrastructure as a Service)が瞬く間に浸透してきた。あるデータによると、世界中のIaaSビジネスのうち90%は、米国発の企業が占めている。確かに、著名なIaaSプロバイダーは、米国でビジネスを開始した企業ばかりである。弊社も「OpSource」という2002年に設立されたIaaSプロバイダーを2010年に買収し、現在のクラウド戦略の柱にしている。

 日本でクラウドと言えば、IaaSと PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)だが、PaaSが多少弱含みではあるが、それぞれが同様のビジネス規模を持っている。ところがグローバルでは、クラウドビジネス全体の「80%はSaaS」という報告もある。

 日本企業の場合、IT資産をクラウドに載せたとしても、リホスト(コンピュータロジックはそのままで、ハードウェアを変更)するケースがほとんどである。いかに、これまでのIT資産を活かすかに重点が置かれているわけだ。割り切って、リライト(基本的なコンピュータロジックはそのままで、アーキテクチャやOSを変更したり、他の開発言語で書き換える)や、リビルド(コンピュータロジックもビジネスロジックも変更する)には、まだまだ敷居が高い。

 SaaSを採用することは、新しいビジネスロジックを採用することに他ならないため尻込みしてしまう。結果として、誰もが知っていて良く使われるSaaSも、日本市場では数えるほどしか存在しない。一方、米国では、様々なアプリケーションがSaaSとして提供されている。ユーザー企業がこれまで取り組んでこなかったビジネス領域にもSaaSを試す動きがある。クラウド市場の内訳をみるだけでも、ビジネスロジックの変更に柔軟かどうかの違いが如実に現れている。

「日本市場の規模は世界の10%」が成立しなくなった

 ところで、日本の市場規模は、かなりの領域で「世界の10%」と考えれば間違いはない。GDP(国民総生産)から電力消費量、マネーロンダリングの額など、いずれもが約10%程度である。IT市場も同じで、その規模は世界の約10%だ。今までは、その10%市場に対し、外資系企業がIT製品を売ってきた。なので外資系企業は総じて、グローバルの10%を売上目標にしてきた。

 クラウド時代には、これまでの構図が壊れ、従来の流通経路ではなく、クラウドの中でビジネスが成立してしまう。だから、外資系IT企業の日本法人は、グローバルの10%を取れなくなっている。外資系IT企業の中には、日本市場での売り上げがこの20年間で半分になった例もある。インターネットを契機に無償(フリー)のビジネスモデルが蔓延してきたためだ。

 ユーザー企業にすれば、20年も前なら高額なIT予算を組まなければできなかったことが、全くの無償で実現できる領域が出てきている。ただ、コンサルタントとして言えは、やはり、無償のビジネスモデルは成り立たないと考える。どこかにしわ寄せが行っているのは事実で、付加価値をいかに付けるかにかかっている。

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