伊勢神宮の式年遷宮に学ぶ、基幹システムのあり方
2014年10月23日(木)CIO賢人倶楽部
「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、レイヤーズ・コンサルティングの有川 理氏のオピニオンです。
円安、株高によって長い景気低迷のトンネルをようやく抜けてきた感がある最近、弊社にいただく情報システムに関する相談内容が少し変わってきている傾向がある。基幹(業務)システムの見直しの相談が多くなってきているのだが、その内容は「経営層があまり乗り気ではない。他社はどうなのか、どう経営層にアピールすればいいか」といったことだ。
日々粛々と稼働している基幹システムに手を入れても、「新たな効果を生まない」「再構築には多額の費用がかかる」という印象が経営層には強く、バブル崩壊以降の厳しい経営環境の中、基幹システムについては再構築ではなく延命措置をとってきたという背景がある。2000年問題時に基幹システムを再構築やERPへの置き換えができた企業はまだしも、生産管理や受発注などのシステムは20年前のままという企業は意外と多い状況である。
必要に応じてパッチワーク的に拡張、改変してきた30年もののシステムも結構存在している。お酒ならいざ知らず、“年代物”のシステムはしゃれにならない。システムを熟知した担当者が異動・退職して、現担当者は決まった運用しかできず、変更やトラブル時には想像を超える時間と費用を費やすという、あってはならない現象にも陥りがち。サポートするベンダーも開発者が世代交代しており、同様にブラックボックス化している。
よく言われる「改築と増築を重ねた、古い温泉旅館」と同様の状況にあることを知らない経営者が多いのだ。それに対して情報システム部門は声をあげているのだろうが、基幹システム再構築にかかる自らの負担や、万一の「動かないシステム」「システム障害」のリスクを懸念し、説得に力が入らない。古い温泉旅館のように目に見える現象がないのをいいことに、再構築を先延ばししているのである。
しかし古いシステムを放置することは、実は経営リスクにつながる。IT部門員やベンダーSEの高齢化、退職によって徐々に基幹システムの「残存耐用年数」は減ってきている。基幹システムにはその企業のオペレーション・ノウハウが積みあがっている。それを理解している社員が残っているうちに「知」の伝承を考えないと、企業運営自体に支障を来すリスクがあることを経営層に伝える義務がIT部門にはある。
2013年、話題になった伊勢神宮の式年遷宮は単なる儀礼ではない。建替えの技術の伝承を行うため、寿命や実働年数から考えて建築を実際に担う大工は10歳代から20歳代で見習いと下働き、30歳代から40歳代で中堅から棟梁となり、50歳代以上は後見となる。このため20年に一度の遷宮であれば、少なくとも2回は遷宮に携わることになり、2回の遷宮を経験すれば技術の伝承を行うことができる。
これを企業の場合に置き換え、20代前半で入社、退職を60歳としよう。すると20年に一度の基幹システム再構築でも関われるのは2回まで。20代後半でメンバーとして関わり、40代ではプロジェクトマネージャ、PMOとして関わるというサイクルを作らないと基幹システムの伝承は難しい。
CIO、IT部門は日々の基幹システムの安定運用・保守は当然のこととしつつも、外部の有識者などもうまく活用して自社の基幹システムの状況を的確に経営層に伝え、責任を持ってシステムの再構築してゆくべきと考える。
レイヤーズ・コンサルティング
IT事業部 統括マネージングディレクター
有川 理氏
※CIO賢人倶楽部が2014年4月に掲載した内容を転載しています。
CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
独立系コンサルティング会社のレイヤーズ・コンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。
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