IoT(Internet of Things)は、つかみどころのないテクノロジービジョンである。現時点でIoTのアプリケーションやサービスとして提供されているものをよく見ると、決して目新しいものではないことに気づく。本連載では、着眼点や重要な事象などを示しながら、IoTの本質と、個人や企業、社会にもたらされる価値を探っていく。第1回となる今回は、米シスコシステムズのコンサルティング部門、シスコ コンサルティング サービス(CCS)が公開している有名なホワイトペーパー「The Internet of Things: How the Next Evolution of the Internet Is Changing Everything」に改めてあたり、IoTが国や企業にとって戦略的に重要と認識されるに至った背景を考えてみる。
IoTはいつ生まれたのか
IoTとは、センサーやアクチュエーターを内蔵した機器(モノ)をインターネットに接続し、機器(モノ)同士の情報交換を実現するしくみで、しばし「モノのインターネット」と訳される。その言葉の歴史は1999年にさかのぼる。RFID(Radio Frequency IDentifier)と先端的なセンシングテクノロジーの実証研究を行うAuto-IDセンターの共同設立者であり、SCM(サプライチェーンマネジメント)プロジェクトを率いたケビン・アシュトン(Kevin Ashton)氏がIoTという言葉を最初に使用した。
今回取り上げるシスコ コンサルティング サービス(CCS)のホワイトペーパーは、発表時期が2011年4月とやや古くなるものの(発表時の組織名はCisco Internet Business Solutions Group)、従来コンピューターを介してヒトを結びつけていたインターネットがモノを接続するものに発展したことを最初に指摘したものだ。レポートは、インターネットに接続する機器数が2008年から2009年にかけて爆発的に増加したことに着目しており、インターネットへの接続デバイスは2020年までに500億以上に増大すると見込んでいる(図1)。この背景には、モバイルテクノロジーの進展があることは疑いないだろう。
IoTにおける「モノ」とは何か
IoTで言うところのThings=モノとはいったい何を指すのか。前述のレポートでは、IoTの「モノ」が「RFIDを付けたモノ」だけではなくなってきたという指摘もある。これは2000年代前半から始まったRFID普及の取り組みがいっそう進み、デジタル家電、自動車などにまで領域が拡大していることを踏まえたものである。これらはすでにスマートTVやスマートカーといった新しいモデルとして提示されている。
また、送電を最適化するスマートグリッド、FA(Factory Automation)機器が製造管理システムとつながるスマートファクトリーといった設備もスマート化が進行している。このように、当初はタグを付けた物体を指していたモノが今では機器や設備を含むようになり、モノが意味する範囲が拡大を続けている。
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- 第3回:IoTデータ処理の仕組みを実装する(2016/01/08)
- 第2回:シスコのIoEビジョンに見る、IoTのユースケースと潜在的な経済価値(2015/03/02)