[クラウド分解辞典−Amazon Web Services編]
AWSをより良く知るための基礎知識:第1回
2015年4月22日(水)佐々木 大輔(クラスメソッド)
ミッションクリティカルな企業情報システムにまで利用さるようになったクラウドサービス。この時代を切り拓いてきたのが、米Amazon.comの「Amazon Web Services(AWS)」である。競合各社がAWSのサービス/料金を基準に、自社のサービス内容を決めている。クラウドの代名詞とも言えるAWSの全容に迫る。
2015年現在、すべてのITシステムにおいて「クラウド」というキーワードは避けて通れない状況になっている。クラウドは当初、Webサービスやソーシャルゲームなどを中心に利用が始まった。それが今や、エンタープライズ分野でも基幹系から情報系まで、様々な局面で活用されている。世界的にサービスが展開されているパブリッククラウドは、事業のグローバル化を支えるサービスとして効率が高い選択肢になる。
こうしたクラウドサービスにおいて、最有力候補に挙げられるのが「Amazon Web Services(AWS)」である。2006年7月に、たった2つのサービスでスタートした。その後、AWSは加速度的に拡張され、2015年4月時点では約40のサービスが提供されている。この間に、800以上の新サービス/新機能がリリースされた。
2011年3月には、東京にデータセンターが開設された。データの保管場所が海外にあることを懸念する利用者層は多いだけに、東京データセンターの開設が、日本国内における利用事例を大きく伸ばした要因であることは間違いがない。
一方で、サービスの種類が多く、かつ変化が早いために、AWSの全容を把握することが容易ではないのも事実である。本連載では、AWSの概要と特徴、各サービスについて、順を追って説明していく。
AWSが示したクラウドのインパクト
AWSの中身に触れる前に、AWSが提示したクラウドサービスの企業情報システムへのインパクトをおさらいしておこう。
クラウド以前、情報システムを構築するには、サーバーのほか、スイッチングハブやルータといったネットワーク機器、インターネット回線、ストレージなどが必要だった。そのほか、これら機器の設置スペースやネットワークケーブル、電源や空調なども用意しなければならない。
これらのハードウェアリソースはすべて、調達した後に、設置や結線、初期設定などを施して初めて利用可能になる。設置場所の重量制限や温度、電源容量など、それに関連して考慮すべき物理的な要素も限りない。関連部署も、購買部門から設置部門、構築部門、運用管理部門など多岐にわたる。
クラウドは、これら物理的・人的要素を排し、情報システムを構築・運用できるようにするサービスとして登場した。Amazonがあらかじめ用意した環境を、必要に応じて必要なだけ使う。ハードウェアの調達も設置も結線も不要で、アプリケーション開発者が自ら、画面上で数クリックするだけで情報システムを調達して使用する。開発スピードを高め、ひいてはビジネススピードの向上にも大きく貢献する。
情報システムの構築に携わる購買部門や設置部門といった人的リソースが不要になるため、コストダウンの効果もある。ハードウェアの保守も不要だ。リソースが不足すれば、数クリックで増やせるだけでなく、逆にリソースが余ったり、そのシステムを使わなくなれば、リソースを削除すれば良い。物理的なハードウェアの購入に伴う減価償却など資産上の管理も考慮しなくてよい。
こうした流れが、ハードウェアに留まらず、ミドルウェアやアプリケーションパッケージにも押し寄せている。
世界各地のデータセンターからサービス提供するAWS
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Amazon Web Services(AWS)は、米Amazon.comが提供するパブリックなクラウドサービスの総称である。米国発のAWSは、現在では世界各地のデータセンターからサービスを提供している。これらデータセンターをAWSは「リージョン」と呼んでいる(表1)。他社も同様の呼び方を始めている。
上述した通り、2011年3月に東京リージョンが開設された。日本国内では日本法人であるアマゾンウェブサービスジャパンがAWSの窓口になっている。
AWSは最初、サーバーリソースやストレージなどコンピューティングインフラを提供するIaaS(Infrastructure as a Service)としてサービスを開始した。だが最近では、アプリケーションの開発・実行基盤を提供するPaaS(Platform as a Service)や、ソフトウェアサービスを提供するSaaS(Software as a Service)の側面も兼ね揃えている。
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