日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)は2015年4月15日、国内ユーザー企業のIT投資・戦略の動向を定点観測する年次調査「企業IT動向調査2015」の結果概要を発表した。1125社の回答から浮かび上がったのは、IT予算は上向くも、既存のシステムの運用保守に追われて戦略投資に舵を切れないでいる、IT部門のリアルな今の姿だ。
人材のスキル移転を志向するも、新技術への対応の遅れに悩む
調査では、IT人材の高齢化に伴う問題についても尋ねている。その結果が図11で、「現行システムを維持する人材のスキル移転」を1位~3位に挙げた企業は74.0%に達しトップとなった。これに「新しいIT技術への対応の遅れ」(66.0%)が続き、これらが2大課題となっている。なお、2大課題を同時に挙げた企業は259社(全体の25.4%)に上り、JUASは「攻めと守りの取り組みをバランスさせるのに苦慮している企業が多い」と分析する。
以降、3位に「大きなビジネスモデル変革の難しさ」、4位に「若手人材のポスト不足」、5位に「シニア人材の給与・ポスト」といった課題が並び、高齢化が進む中で若手を責任あるポストを任せることもままならず、変革を十分に推し進められないでいる今のIT部門の苦悩がうかがえる結果となっている。
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JUASは、この企業IT動向調査2015と併せて、前回と同様、「ソフトウェアメトリックス調査2015」を同時に実施した。今回の同調査では、開発生産性向上のための手法として注目度が増しているアジャイル/超高速開発の採用動向を詳らかにしている(ウォーターフォールとアジャイル開発はどちらが優位か? “超高速開発”を含めて、JUASが3手法の分析結果を公表)。こちらも興味深い結果となっているので併せて参照されたい。
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紹介した主な調査項目の中では、やはり「戦略2:運用8」の投資比率に強い懸念を感じる。「ラン・ザ・ビジネス」という呼び方には多少前向きなイメージもあるが、その実態は、大規模化・複雑化が進んだ既存のITインフラ/業務システムの運用管理・保守に膨大な時間と労力を取られて疲弊する、防戦一方の姿だ。
消費者の行動やビジネスのルールが数年前から一変し、市場での生き残りをかけた競争が激化している今、いつまでもバリュー・アップ=戦略投資に舵を切れないでいることのリスクは大きい。幸い、IT予算自体は上向きの傾向にある。「転換期に求められるIT部門の役割」をあらためて認識したうえで、まずは既存のITインフラあるいは組織構成のレベルから見直しを図り、徐々に運用投資を戦略投資に振り向けていくことが強く求められている。