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[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

クラウドの時代だからこそ、やってみることが重要

元あきんどスシロー 情報システム部 部長 田中覚氏

2015年10月8日(木)CIO賢人倶楽部

「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、元あきんどスシロー 情報システム部 部長 田中覚 氏のオピニオンです。

 私がスシローに入社し、情報システム部長となったのは2011年のこと。わずか4年前だが、当時は黒い表紙の「スシロー手帳」でスケジュールを管理し、稟議書には印鑑を押して回覧し、経費精算は分厚い複写式の台帳に手書きで記入していた。メールも社外はインターネットメール、店舗とは社内用のグループメールというふうに使い分けており、支給されるノートPCは画面が小さくて重かった。

 それまでアクセンチュアとGeneral Electricに在籍し、充実したITインフラを当然だと思ってきた私にとって、ノートPCが重いという共通点を除き(笑)、紙ベースの非効率な世界は信じられない光景だった。理由はすぐに理解できた。スシローでは食材原価率を50%もかけており、本社や設備に余計なお金をかける余裕が全くなかったのだ。

 とはいえ情報システムを担う以上、予算がないからと放置するわけにもいかない。ちょうど内部統制上の課題から稟議のワークフロー化を求められており、これに便乗して改革を進めることにした。ワークフローに採用したのはGoogleAppsである。GmailとGoogleカレンダーがおまけでついてきた。

 周囲からは「新しいシステムは使ってもらえないリスクが高い」と言われた。そこで一計を案じてモバイルルーターを廃止。浮いたお金でガラケーをスマホに変えてモバイルの利便性を向上し、さらにPCも新型のウルトラブックに変え、新しいシステムへの抵抗感を和らげるようにした。すると導入は歓迎され、あっという間に定着していった。

 オンプレミスだとシステム構築に相当の投資と労力が必要だが、クラウドサービスならば多少使い勝手が悪くても、驚くほど手軽に低コストで導入できる。その分、システムを使ってもらうことにお金と知恵を使うことができ、結果として使い勝手の良いITインフラを構築できたと思う。

 次に行ったのはデータ分析だ。スシローでは寿司皿にICタグを取り付け、データを収集していたが、十分に活用できていなかった。詳細に分析しようにも、宝の山か、ごみの山かも分からない以上、分析のための投資ができないのは当然である。そこでクラウドを利用して、データの価値検証を試みた。

 検証はやろうと思ってからわずか3日でできた。普段よくデータを見ているメンバーと確認していくと様々な気づきがあり、データの重要性を共有できた。保有しているデータの欠点も明確になった。我々にはクラウドやBI(Business Intelligence)ツールの技術知識はなかったが、ベンダーのサポートのおかげでスムーズに作業が進み、費やしたコストはたったの10万円である。それでも検証のおかげでDWH(Data Warehouse)構築の意思決定やマスターデータのメンテナンスに着手でき、現在のデータ分析環境が出来上がった。

 繰り返すが、たった3日、10万円の投資で取り組むべき課題が明確になったのである。しかもクラウドサービスはサーバーの時間貸しサービスから、サーバー周辺の様々な機能を提供するマネージドサービスへと進化している。やることを躊躇するよりも、やらないリスクを考えるべきことは明らかだろう。スシローでは使えそうなサービスはとりあえず試してみて、特に便利だと感じたデータベース管理やサーバーの冗長化はマネージドサービスを標準とした。運用負荷の軽減や可用性の向上を確実に実現できるからだ。

 以前なら、これらの高度な機能を利用するには専門の技術者が必要だった。今日のクラウドではベンダーとパートナー企業によるエコシステムが形成され、安心して利用できる環境が整っている。試すことをせず、食わず嫌いでいると競合他社に差をつけられてしまう恐れがある。それどころかシャドーITが流行り始めた最近は、業務部門に先を越されてしまうケースまで発生している。

 ビジネスのスピードが加速している現在、新しいサービスに目を配って使えそうなものはともかく試していかないと、あっという間に競合や社内に置いてきぼりにされてしまうのだ。「やらないリスクを取らされないためにも、とりあえずやってみることが重要」。それがデジタルビジネス時代といわれる今日だと考えている。

元あきんどスシロー
情報システム部 部長
田中 覚氏

※CIO賢人倶楽部が2015年10月1日に掲載した内容を転載しています。

CIO賢人倶楽部について

大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。

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