働き方改革であらためて注目を集める「テレワーク」。だが、現状では多くの誤解を受けている。これは決して一部の社員のためのお助け制度でも、人が顔と顔を合わせることを軽視するものでもない。企業が次世代の働き方を実現するために、成長戦略の中核に据えてしかるべき取り組みなのである。「“儲ける”ために働き方を考えよう」というユニークな提唱を行う日本マイクロソフトで働き方改革の推進役を務める小柳津篤氏に、同社の実践とそこで得た教訓をたっぷり語ってもらった。

4つの環境要因が整わないと、働き方改革は失敗する

 では、実際に働き方を変えようといった段階で、「これまでの業務習慣はなかなかすぐには変わらない」「せっかく導入したシステムやツールも、社員からの反発を受けて利用が増えず、変革は尻すぼみで失敗に終わってしまう」といったケースはよく聞く。どうすれば働き方は変わるのだろうか。小柳津氏は、「働き方を変えましょうと何となく声をかけ、スマホを配るだけでは人の習慣はそうそう変わりません」と断言する。

 小柳津氏は、会社が働き方改革に取り組むとき、デバイスやツールだけでなく、就業規則やセキュリティポリシー、オフィスからクラウドサービスまであらゆるものをその活動に寄せることが欠かせないと説く。「オフィス」「モバイル」「労務管理」「情報管理」の4つの環境要因すべてである(図4)。

図4:テレワークを促進するための4つの環境要因(出典:日本マイクロソフト)

 日本マイクロソフトのオフィスは、グローバルで、空間デザインを工夫し、フリーシートやオープンエリアを多く設けて人と人が関わりやすい環境を作り上げている。また、あらゆる業務をクラウドに乗せ、社外からのネットワーク接続を前提にセキュリティを強化し、ペーパーレス化を徹底している。同社の社員は皆、オフィスの外にいても、オフィスにいるのとまったく同じ業務をモバイルで行うことが可能だ。

 しかし、オフィスとモバイルを整えるだけではまだ足りない。それらを生かすためには、労務管理と情報管理の両面での対応も必須だ。人は便利というだけではなかなかワークスタイルを変えない。例えば、「お前は外でサボってるんじゃないのか」という疑惑の目で見られたり、持ち出したPCを紛失してしまって情報が漏えいした時には生じた損害の責任を取らされるんじゃないのかなどの不安があったりしたら、社員は結局怖くなって何もできなくなってしまう。

 つまり、労務管理と情報管理によって、社員側が、「自分も守られている」と実感できるレベルまで引き上げないと、どんなに良いオフィスやモバイルを整えても、それらが社員に十分に活用される日はやってこない。

 「実は、我々だって何度か失敗しています」と小柳津氏は話し、こう打ち明ける。「例えば、今、素晴らしいと賞をいただいているオフィスとまったく同じ環境を過去3回導入しているんです。でも、生産性も上がらなければ、コミュニケーションも良くならなかった。社員からは文句タラタラで、3回とも再投資をして元の島型オフィスに戻したんです」。

 つまり、この4つの環境要因のどこが欠けても働き方改革は失敗する。これらがすべて揃って目標のレベルを超えたとき、はじめて働き方の多様性が社員に浸透していくのだという。