[中国電脳事情]

【中国電脳事情セレクション】AI国家戦略、スマートシティ、ベンチャー海外進出…中国IT業界リーダー5社が提言

2017年3月30日(木)足立 治男

中国メディア各社の報道から、IT関連の最新動向を紹介する「中国電脳事情」。1カ月間に報じられた主要なニュースから重要なものをピックアップしてお伝えする。

 

レノボ主席、実体経済を成長させる3つの提言を行う

―テンセントサイエンス(2017年3月3日)

 中国PCメーカー最大手のレノボグループの取締役会主席で、全国政治協商委員を務める楊元慶氏は、実体経済の成長に関する3つの提言を行った。

 提言1:企業を「イノベーションの主体」としてその地位を強化させ、実体経済成長の動力とする。現在、中国の科学分野の研究開発は、多くの研究資源が政府系研究機関や大学などに集中しており、企業の参与度は依然として低く、ミスマッチが発生している。これを改善することで、企業の資金使用効率や研究成果の転化(応用)率を向上させる必要がある。

 今後、政府が科学技術と産業発展の計画を制定する際は、さらに多くの企業から意見を聞くべきであり、政府のイノベーション政策に対する企業の発言権を拡大するべきである。こうした計画は、企業の実際のニーズを十分に反映し、政府系研究機関や大学と、企業の研究開発部門との役割分担を明確化するべきであり、市場価値が明確なイノベーション項目は、すべて条件の符合する企業がその主体となって研究機関やイノベーションセンターを設立するべきである。

 提言2:金融サービスを大幅に改善させ、さらに多くの資金を実体経済に流入させる。金融は実体経済の「血液」であるが、資金調達の難しさが実体経済の成長を制約しており、特に中小企業における「融資難」の問題は突出している。実体経済の成長を促進するためには金融サービスの改善は必須であり、金融機関と実体経済の利害バランスを調整することで、更に多くの社会資本を実体経済に向ける必要がある。

 具体的には、(1)大企業に依存する産業チェーンとしての金融を全力で成長させる、(2)製造業の中枢企業のデータに基づく企業の信用管理制度と情報プラットフォームを構築し、将来的には国家レベルによる信用情報管理システムの一部とすることで、中小企業による信用情報の構築が困難である現状に対するソリューションとする。

 提言3:企業による「海外進出」をサポートし、実体経済の新たな成長空間を開拓する。国策「一帯一路」戦略の実施に伴い、海外の新興市場は中国企業成長の新天地となっており、その海外進出を加速させる必要がある。現在、海外と連携した金融サービスの成長に停滞が見られており、これが企業の海外進出を阻害する要因となっている。

 これに対するソリューションとして、中国の商業銀行と開発的金融機関(AIIB、新開発銀行、シルクロード基金)との提携を推奨し、金融緩和や税優遇などの手段を通して「一帯一路」関連プロジェクトなどへの安定した資金提供を行い、金融機関の海外向けサービスを強化する。中国の商業銀行による海外での支店設立や企業買収などの審査手続きを簡略化することで、中国の商業銀行の業務エリアを「一帯一路」沿線国家や地域に拡大させる。

 まとめ:中国は現在、国策として「一帯一路」戦略を推進しており、大量の現金をつぎ込んでアジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行などを作ってきたが、これだけでは実体経済の成長には全く足りていない。「我々は知恵を絞ってコストダウンやバブル回避を行い、国際競争力を備えた多国籍企業を多数輩出しなければならず、これは、世界経済が『グローバル化』と『反グローバル化』で衝突している現在において、中国が新たな世界経済のグローバル化のリーダーと成るための唯一の方法である」(楊氏)

蘇寧CEO、「流通・貿易業の新ルート構築」「若者のベンチャー起業支援」を掲げる

―経済観察網(2017年3月5日)

流通・貿易業の障壁を突破し、一帯一路の新ルート構築を目指す

 中国家電メーカー最大手の蘇寧グループのCEOで、全国政治協商委員を務める張近東氏は、世界レベルで保護貿易の過熱が見られる中、中国の輸出貿易にも不利な影響が及んでいるとした。中国の流通・貿易企業の国際的な競争力は依然として強くない。商務省のデータによると、2016年の輸出入総額は24.3兆元(約392兆円)で、前年比0.9%の減少となった。貿易高の減少は、輸出減によることは明らかであり、2017年1月における中国の貿易黒字額は513.5億米ドル(約5兆7000億円)で、前年同期比9.6%の減少となった。

 流通・貿易業界では、自社商品の海外展開を望む中国企業は日に日に増えているが、その多くは独自の海外拠点やルートを持っておらず、「単一商品ライン作戦」(大量生産した商品を低価格で販売すること)を強いられており、海外における中国商品のブランド構築を大きく妨げている状況だ。

 また、中国企業が海外進出する際に、多くの規制や制限を受けることがあり、例えばプラットフォームの建設や物流網の構築、人材の育成などにおいては中国政府による政策的な障壁がある。また、海外の政府もサービス貿易分野で参入の敷居を異常に高くしているところもあり、例えばインドでは、現地で販売網を構築するためには、人口100万人を超えた都市に1億ドルを直接投資して、少なくともその50%を3年以内にバックエンドのインフラ施設に投資しなければならない。

 こうした状況を打破するためには、伝統的な「単兵作戦」(企業単独で海外展開を模索する現状)から、政府と小売業者が連携した「護送船団方式」に改めるべきである。そのためには、政府が高度な青写真を描いて保護貿易に明確に反対し、政策的措置によって流通・貿易業の障壁を突破させる必要があり、これは貿易自由化の前提条件である。政府は企業と緊密に協同し、海外進出戦略の企業連合を形成し、政府の戦略的角度から「一帯一路」に諸外国の規制や制限の解決を図るのである。

ベンチャー資源の配置を最適化し、若者のベンチャー起業を支援する

 中国国務院は2016年に「大衆創業・万衆創新」(誰もがベンチャー起業をして、誰もがイノベーションを起こすという意味)を提唱し、すでに中国の経済成長や雇用創出の新たな原動力となりつつあるが、ここで注目すべきは、ベンチャー企業の業種にインターネット関連が非常に多いことである。企業登記の統計によると、2016年に中国で設立登記された企業の内、情報・インターネット・ソフトウェア関連の企業は全体の63.9%に上った。また、中国全土の50%以上のベンチャー投資家と70%以上のエンジェル投資家が中国の国策である「インターネット+」の分野に対して投資を行っているという。

 一方、ベンチャー企業の倒産も多く、不完全な統計ではあるが、ベンチャー企業の倒産件数は2016年7月までに2000社を超えたとされ、起業総数の10%に相当するという。この中には巨額を投じて設立されたユニコーン企業(評価額が10億ドル以上で非上場のベンチャー企業)も少なくない。

 地域別にみると、いわゆる「ベンチャー資源」の不均衡が見えてくる。テンセント社が運営する研究機関の発表した統計では、ベンチャー企業が最も多いエリアが北京市、上海市、深セン市であり、中国全体のベンチャー企業の約7割がこのエリアに集中しているという。一方、IT企業のデータベースサイト「IT橘子」などの統計によると、前出の倒産したベンチャー企業の生存期間は平均32ヶ月間であり、こちらも同エリアに集中しているという。

 「こうした状況から、若者たちのベンチャー起業の成功率を向上させるために、ベンチャーの概念を社会のさらに深い領域へ浸透させて、ベンチャー資源の配置を最適化させるべきである。地方政府と大型企業が提携し、政府の政策的リーダーシップと企業の技術・サービスを融合させ、共同でベンチャー支援フォームを構築する。これにより、ベンチャー企業に対して、低コストでクラウド、ビックデータ、税務及び法務などの支援を公共サービスとして実施することが可能となり、全国の主要都市とその他の都市の成長不均衡の解消につながるのである」(張氏)

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