電力自由化/発送電分離による競争激化など電力業界における大きな環境変化を背景に、電力中央研究所が長年オンプレミス運用してきた基幹業務システム群をクラウドに全面移行した。2020年2月開催のModern Business&CX(共催:日本オラクル、東洋経済新報社)イベントに、プロジェクトを率いた総務グループ 上席スタッフの岩井田浩章氏が登壇。Oracle Cloudを採用して基幹含む業務システム群の全ファンクションを20のPaaS/SaaSで実現し、複雑なクラウド連携にも対応するという大規模かつユニークなプロジェクトの詳細を明かした。
業務の効率化、高度化、システム基盤の刷新を推進
科学技術研究を通じて電気事業と社会に貢献することを目的に、1951年に創設された電気事業共同の研究機関、電力中央研究所(電中研)。原子力発電から火力、水力、再生可能エネルギー、電力流通、需要家(消費者、コンシューマー)サービスなど電気事業に関するさまざまな研究を行っている。2019年度予算は296億円、要員は762名(研究675名、事務87名)という大規模組織だ。
電中研ではこれまでオンプレミスでさまざまなシステムを運用してきたが、2017年8月からそれらのクラウド化に着手。2019年9月までに基幹業務システムを含むほぼすべてのシステムをクラウドに移行した。対象業務としては、メール、コンテンツ管理、プロジェクト管理、予実管理、調達・サプライヤ管理、出張手配・費用精算、プロジェクト契約・請求、財務会計、人事・労務管理、研究管理、FAQなどだ(図1)。
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「コンテンツ管理や研究管理、旧システム閲覧環境などはPaaSを、それ以外のシステムのほとんどはSaaSを利用しています。Oracle Cloudを中心としたマルチクラウド環境で稼働しています。これだけのシステムを一度に移行したこと、IaaSではなく、PaaSやSaaSを使って多岐にわたる連携を実現したこと、マルチクラウド環境でユーザー認証を統一したことなど、先駆的なポイントの多い移行事例となりました」(岩井田氏)
システム更新の背景に、中期経営計画で掲げた“あるべき姿”の実現があった。電力自由化や発送電分離といった、電力業界の大きな環境変化の中で、「業務の効率化」「業務の高度化」「システム基盤の刷新」の3つが求められたという(図2)。
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「業務フローの単純化や事業区分でBS/PL(貸借対照表/損益計算書)、CF(キャッシュフロー)に対応すること、Javaフレームワーク環境の刷新など、システム更新によって、3つを推進する狙いがありました」(岩井田氏)
SaaS、PaaSで幅広い業務をカバーできたことを評価
電中研では、各種の研究プロジェクトを「課題・題目」という階層で管理している。事業戦略や事業ポートフォリオ、研究マネジメントは「ポートフォリオ管理」という階層で、8研究所・2センター・業務部門などが行う400の課題は「プログラム管理」の階層で、450名の担当者がいる1200の題目については「プロジェクト管理」という階層でそれぞれマネジメントされる。
この階層管理はPMBOK(Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)に基づいており、研究だけでなく、事務系の業務もプロジェクトとして管理している(図3)。
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基幹系システムは、これらのプロジェクト管理システムを含め多岐にわたる。まず、事前調査の結果を踏まえ、情報提供依頼(RFI)を10社に発行、提供された情報を基に提案依頼(RFP)を3社に発行、提案内容を精査して、最終的に日本オラクルをシステム刷新のパートナーに選定した。
「選定理由の1つは、Oracle Cloudとして提供されているSaaS/PaaSによって幅広い業務をカバーできる点です」と岩井田氏。具体的には、プロジェクト管理やプロジェクト契約・請求、ブロジェクト勤怠のためのERP、プロジェクト予実管理のためのEPM(Enterprise Performance Management)などがSaaSで、アプリケーション開発やデータマネジメント、エンタープライズ統合、セキュリティといったサービスがPaaSで利用できる。
電中研が採用したのは、プロジェクト管理の「Project Financials Cloud」やプロジェクト予実管理の「Planning and Budgeting Cloud Service」など、10のSaaSと、アプリケーション開発の「Oracle Database Cloud Services」やデータベースバックアップの「Oracle Database Backup Service」、セキュリティの「Oracle Identity Cloud Service」など10のPaaSだ(図4)。
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