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社内情報システムの一部にコンテナ基盤を採用─NTTデータの社内IT担当者にその目的や経緯を聞く

2020年9月17日(木)田口 潤、杉田 悟(IT Leaders編集部)

スケーラブルなアプリケーションを構築および実行するためのコンテナ技術。そのメリットが注目される一方で、導入事例はネット系のサービスが大半であり、特に社内システムを多く抱える企業にとってはまだハードルが高いかも知れない。そんな中、NTTデータが社内向けアプリケーションをコンテナ基盤に移行したと発表した。どんな経緯があったのか。同社の社内IT担当者に聞いた。

 NTTデータは2020年9月7日に、スマートフォンから社内システムにアクセスし、様々な業務を行うためのモバイルデスクトップシステムを、Kubernetesコンテナ基盤に移行したと発表した(関連記事NTTデータ、1万2000人が使う社内システムをKubernetesコンテナ基盤に移行)。

 しかし日本を代表するIT企業の1社である同社であっても、社内ITは多くの一般企業とそう変わらない。社内にはマイクロサービスやコンテナ、クラウドなどの技術に精通したエンジニアが多数在籍し、実践事例も蓄積しているのは確かにせよ、そうした人材の本来業務は外部の企業向けで社内ITについてはノータッチだからだ。「紺屋の白袴」であるかどうかはともかく、それに近い状況と言っていい。

 その分、同社の経験はクラウドネイティブ技術への移行を検討する企業にとっては大いに参考になり得る。どんな社内アプリケーションをどんな目的で移行したのか、プロジェクトを経ての感想はどんなものか? NTTデータの情報システム部門である技術革新統括本部ITマネジメント室の課長である小西幸雄氏と課長代理の栗原優樹氏に話を聞いた。

特定時間にシステム負荷が増大する課題が浮上

――モバイルデスクトップシステムをコンテナ基盤に移行したということですが、まず、このシステムについて教えてください。

小西氏:メールや予定表、名刺管理、議事録、リモートアクセスといったモバイル専用のサービスを提供するものです(図1)。従業員がスマートフォンで適宜、必要な業務をこなせるようにしています。私物のスマートフォンによるBYODも許容しています。

図1:モバイルデスクトップサービスの全体像(出典:NTTデータ)
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――そのモバイルデスクトップシステムをコンテナ基盤に移行したきっかけは何ですか?

小西氏:負荷の問題です。モバイルデスクトップシステムは、従業員がPCを使っている平日の日中帯ではなく、出勤時間や昼休み、移動時間、退勤時間などPCを使わない時間帯によく利用されています。その特定の時間帯に利用が集中するので、負荷が上がってリソース使用量が上限に張り付くことが課題でした。そんな時にオートスケールして、リソースを最適化し、安定性を確保したかったのです(図2)。

図2:モバイルデスクトップサービスの平常時と高負荷時(出典:NTTデータ)
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 同時に、アプリケーションの構造上、利用は終了しているのにシステム的には稼働している処理が発生することが起きていました。このような、いわゆる”ゾンビ化”した処理を検知したり、オートヒーリングのような形で死活監視と自動復旧を行うことで、トラブルが起こった際に早期復旧して安定したサービスを提供することも考えました。

栗原氏:もう少し背景を詳しく説明します。モバイルデスクトップシステムのサービスを開始したのは2015年でした。当初はメールやリモートアクセスなど2、3個のアプリケーションを提供しており、利用者数も限られていましたので、負荷の問題はありませんでした。しかし利用者の要望を取り入れ、機能やサービスを追加していくと、認知が高まり、利用者も増えます。

 これ自体はとても嬉しいことですが、2016年頃には利用者数の増加とシステム負荷の増大という問題が出てくるまでになりました。メールや予定表といったよく使うアプリケーション以外の具体例を挙げると、勤怠があります。出勤、退勤の際にプッシュするだけで就業管理システムにデータを送り、労働時間を管理するものです。今では全社員の6、7割にあたる約1万2千人が利用しており、幹部からも「止めてはならないアプリケーション」と認知されています。

小西氏:しばらくはアプリケーションのチューニングや運用などで対処していたのですが、2018年には高負荷に起因するトラブルやリソースの張り付きなどが起こるようになり、ユーザーからのトラブル報告も出てきました。そこで2019年3月にコンテナ基盤への移行を決めました。

――なるほど。しかし成熟したやり方、例えば仮想化してアプリケーションを並行稼働させるとか、もっとシンプルにサーバーを増強する選択肢もあったのでは?

栗原氏:はい。実際にいくつかの方法を検討しました。アプリケーションは比較的小規模なので、そのために仮想基盤を用意すると相対的にオーバーヘッドが大きくなります。利用が集中する時間帯も限られますので、そのために仮想マシンを用意しておくのは、あまり現実的ではありません。サーバーを増強するのも同じです。

 モバイルデスクトップシステムは、約100ある社内システムのひとつであり、そのひとつのためにサーバーを増強するやり方では対応が難しくなってきます。今回の取り組みはいずれ他のアプリケーションにも適用することになりますし、将来的を考えるとコンテナ化がベストだと判断しました。

 もう一つ、これは当社ならでは有利な点かも知れませんが、社内に「アジャイルプロフェッショナルセンター」という組織があります。本来、外部にITサービスを提供する事業部のための技術支援部隊であり、アジャイル開発やそのための技術基盤やノウハウ提供を行っています。このセンターに相談したところ、マイクロサービス化してリリースしていけばシステムの安定化につながるといった意見をもらいました。

――改めて、具体的な開発スケジュールを整理させて下さい。2019年3月にスタートして2020年6月にサービスを開始したということですが、どのような工程で開発を進められたのでしょうか。

栗原氏:2019年3月に検討を開始して7月までにソリューション選定を行いました。並行して、アプリケーションをコンテナ化するための準備作業も実施しました。アプリケーションの一部はWindowsベースだったのでLinuxに移行させる見直しを行うなど、マイクロサービス化できないところを整理しました。

――今ではWindowsもコンテナに対応しているはずですが、あえてLinuxへ移植する必要はあったのですか。

小西氏:プロジェクト開始時にはWindowsはコンテナに未対応だったんです。ただ実際には、それはきっかけに過ぎず、もともとWindowsサーバーやLinuxサーバーなど複数の環境にアプリケーションが分散して、つぎはぎになっている課題がありました。コンテナ化をきっかけに、よりシンプルにしておきたいと考えたのです。

栗原氏:Kubernetesのインストールや環境整備を終えたのが2019年11月、そこから試験を裏側で回して、つまり並行稼働を経て2020年6月20日にコンテナ環境に切り替えました(図3)。

図3:コンテナ基盤移行の開発スケジュール(出典:NTTデータ)
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●Next:コンテナ基盤としてTKGIを選択した理由は?

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