システム内製化への回帰がはっきりと見てとれる。バイモーダルITの考え方の浸透、「2025年の崖」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の潮流、ローコード/ノーコードツールの台頭など要因はいくつかある。IT部門にとって重要な観点は何だろうか。
ここ数年、企業が自ら情報システムの開発や保守・運用を主導する「システム内製化」の動きが顕著になってきている。“餅は餅屋”にとばかり、ベンダーに依存・丸投げするのとは真逆である。それはあたかも大きな波のようだ。内製で経営情報システムを構築してきたメインフレーム時代から、ベンダー依存が強くなったオープンシステム時代/インターネット時代を経て今、再び内製化への動きが強くなっている。
この間には、システム部門の技術者が関与せずに事業部門が内製でシステムを作ったEUC/EUD(End User Computing/End User Development)の時代もあったが、それはひとまず置くとして、近年の内製化への動きには背景にいくつかの要素がある。経営的な要素と技術的な要素に分けて考察してみたい。
顕著になったシステム内製化の要因
経営的な要素できっかけになったのは、米ガートナーが2015年に提唱したバイモーダルITではなかろうか。企業システムには2つの流儀があって、1つは守りのITやSoR(Systems of Record)、モード1と呼ばれる従来型のデータ管理中心の基幹システム、もう1つが攻めのIT、SoE(Systems of Engagement)、モード2と呼ばれる顧客との結びつきを深めていく事業の前面に立つシステムで、これらを“両刀遣い”で有機的に活用するシステム群のことである。
モード2のシステムは、変化が激しい市場環境に合わせて臨機応変に構築・拡張していく必要があり、ウォータフォール型開発で要件定義して1~3年かけて開発などと悠長なことを言っていられない。短期間のリリースや改変が求められ、アジャイル開発手法が必然的になる。文字どおりにアジャイルにやる必要があるから、さすがにベンダー丸投げにはできない。開発手法を体得し、内製化するほかない。
さらに「2025年の崖」や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の潮流が拍車をかけている。ほとんどの事業や業務にITやデジタル技術が密接に関わる今、ベンダーに依存していては時間もコストもかかるうえ、社内にノウハウを蓄積できない。放置すれば競争上不利になるから、社内人材を有効に活用しつつ技術レベルを上げて技術者育成を継続的に行わなければならない。そのためにはシステム内製は願ってもない開発スタイルである。これがもう1つの経営的な要素だ。
技術的な要素としては、ローコード(Low Code)プラットフォームと呼ばれる、深いプログラミング知識なしにシステムを開発できるツールが増えてきたことがある。国産でも、ノンプログラミングでアプリケーションを自動生成する「楽々フレームワーク」(住友電工情報システム)や「Web Performer」(キヤノンITソリューションズ)などすぐれたツールが15年~20年も前から提供され、超高速開発ツールと呼ばれる市場が形成されたが、内製化の大きな波にはならなかった。
近年の内製化の動きに伴い、海外の大手IT企業、有力IT企業がクラウド型のローコード/ノーコード(ノンプログラミング開発)ツールの提供を始めていて、事業会社の内製化を後押ししている。マイクロソフトやセールスフォース・ドットコムが大手ITベンダーの例だ。しかし、こういった要素だけでは内製化はできない。欠かせないのは人材である。
完全内製化か、新たなパートナーシップか
事業会社の中には、すべてを自社だけでこなす完全内製化を進めているところがある。社内の技術者だけでは不足する技術やスキルを、優秀な技術者を外部から中途採用して埋める。そうした人材に開発リーダーのポジションを与えてモチベーションを高め、社内人材の技術的な育成にも役立てている。少しずつ内製できる人材を社内で育成し、内製率を高めている会社もある。
しかし人材育成には時間がかかるし、モード2のシステム開発要求は待ってはくれない。そこで出てくるのが新たなパートナーシップの形だろう。丸投げでもなく、依存でもなく、準委任契約で開発のパートナーになってもらい、技術移転をしてもらうのだ。多くの事業会社のシステム部門は、しばらく内製をしていないために開発や保守に慣れていない。当然だがアジャイルな開発にも慣れていない。ノンコーディングツールを使いたくても勝手がわからない。
こうした状況にある企業が内製に取り組むきっかけが欲しければ、アジャイル開発を指導してくれる会社やローコードツールベンダーに相談して開発プロジェクトを始めればいい。3カ月以内にリリースできる程度の規模がよい。
大切なのは「すぐ始める」ことだ。何事も始めなければ始まらない。自分たちの意思ですぐに始められるし、パートナー選択を誤らなければ大きな失敗をすることもない。技術移転を行いつつ内製を習慣化していけば、やがて完全内製化も夢ではない。
●Next:システム開発の内製化は保守の内製化にもつながる
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