データを高度に利活用するためには、組織横断型の確固とした基盤を構築するのはもちろんのこと、運用体制も含めて維持・成長できる枠組みを整え、形骸化させないことが重要となる。日立製作所はこの領域で、これまでの多くの実績から導いた豊富なナレッジを提供している。同社のキーパーソンにエッセンスを伺った。
「企業を取り巻く環境に即応し素早い意思決定で企業価値を高めていくためには、データを資産化するための基盤、すなわちデータマネジメント基盤が不可欠です」──こう力説するのは、日立製作所の岩渕史彦氏(サービスプラットフォーム事業本部マネージドサービス事業部)だ。だが一般的な業務システムの構築案件とは異なる視点が必要であるとも指摘する。
データマネジメント基盤のベースとなる技術要素は、データの抽出・変換・格納(ETL)、データの可視化(データカタログ)、データの蓄積(データレイク)などがある。要件を定めて、それに見合うものを導入するのが順当な方策のようにも思えるが、「データマネジメント基盤の構築だけでは不十分で、データを活用していくための組織やルールの整備、活動の統制(ガバナンス)も併せて取り組んでいくことが重要です」と岩渕氏は説く(図1)。
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運用開始後はデータの活用頻度や品質をモニタリング
資産化したデータを利活用したり、維持していくためには、データの利用状況などをモニタリングする体制を作って運用していく必要がある。そこでの観点は大きく3つある。①データ利活用の活性化、②データ品質の維持・向上、③データマネジメント基盤の成長、である。以下に、それぞれにおけるポイントを挙げてみよう。
データの利活用を活性化するためには、データの活用頻度をモニタリングする必要がある。活用頻度を高めるため、経営層からのメッセージを伝えたり、成功事例を共有したり、利活用方法を教育したりするなどの工夫を凝らさなければならない。
データは、放置しておくと劣化していく。だからこそ、日頃からデータの品質をモニタリングして、問題なく使える状態をキープするための施策を講じることが必要だ。定期的にクレンジングや名寄せなどを実施することに加え、散在するデータを統合する取り組みも続ける必要がある。
システム基盤を成長させていくためには、技術動向をウォッチする姿勢が必要だ。「今、利用されていればそれでよい」という保守的な考えは捨て、先々を見据えた上で有望なテクノロジを積極的に検証して取り込み、データマネジメント基盤自体の機能を常に成長させていくことが重要である。
扱うデータを段階的に拡張、初期構築は12カ月が目安
データマネジメント基盤の構築や整備は、全社的な規模で考えるべき案件となるので、プロジェクトはどうしても長期化することが見込まれる。こうした中で、どこから着手して、どのように対象を広げていけばよいのだろうか。岩渕氏は「小さく始めて段階的に規模を拡張していくスモールスタート型が有効です」とアドバイスする。ここで、拡張する対象として考えるべき観点は大きく3つある。蓄積するデータの種類、備えるべき機能、扱うデータ形式、である。
- 蓄積するデータ:CRM領域、SCM領域、ERP領域
- 備えるべき機能:定型分析、非定型分析、将来予測
- 扱うデータ形式:基幹系システムのデータ(RDB)、顧客接点情報(Webサイトなど)、工場・物流データ(IoT)
…といった形で広げていく
※CRM:Customer Relationship Management
※SCM:Supply Chain Management
※ERP:Enterprise Resources Planning
プロジェクトのスケジュール感については、「初期構築で12カ月、段階的拡張は6カ月サイクルで実行することを推奨しています」(岩渕氏)という。具体的には、要件定義が3カ月、基盤の設計・構築・データ移行が9カ月、である。その後は6カ月サイクルで拡張を繰り返していく。
データマネジメント専用組織を置いてトップダウンで取り組む
データマネジメントを推進していくための組織作りも極めて重要な取り組みだ。日立製作所では、これまでの実績や経験から導いた組織モデルや役割分担のテンプレート、考え方などを整理して、ユーザーに提供している。「組織全体に対するリーダーシップを発揮する存在として、CDO(最高データ責任者)を置くことが望ましい」と岩渕氏。日本では、現場主導のボトムアップ型が馴染みやすいとの声もあるが、組織の壁を乗り越えられないという課題がある。だからこそ、トップダウンで統率していくのが良い。
データマネジメントオフィスなどと呼ばれる推進組織は、経営や業務管理を担う組織の中に設置することを推奨する。データモデルやデータの品質を監視し、これを改善することが役割になるため、メンバーは業務部門やIT部門と連携する視点が欠かせない(図2)。業務部門が日々生まれるデータの品質について責任を持つ一方で、IT部門がデータマネジメント基盤の稼働を保証するといった役割分担を図るのだ。
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マスタデータについては、各部門に整備していただく必要がある。例えば、顧客マスタデータは営業管理部門、商品マスタデータは商品企画部門に整備を依頼する。日々のトランザクションで発生するデータも、それぞれの発生部門に依頼して入手する。例えば、受注データは営業部門、原価データは生産管理部門から入手するといった具合だ。
さらに、データ利活用に関するルールや規約を整備していかなければならないと岩渕氏は指摘する。組織全体でデータ利活用・データマネジメントを推進するためには、データの品質や取り扱い管理などの原則を明文化しておくことが必要である。また、「最近は個人情報保護などデータセキュリティに関する問い合わせが増えています。日立は、法規に基づいたチェックリストを提供したり、アセスメントを実施したり、アドバイスをしたりすることが可能です」と岩渕氏は話す。
このように日立が市場に提示するナレッジは、これまでの多くの案件での経験知を凝縮したものである。「これからも顧客との協創に努め、知見を洗練させていきます。データの高度な利活用は、人々や企業が豊かな営みを継続させていくことに大きく貢献できると確信しています。また、ノウハウやナレッジの共有を図り、よりよい成果を生むためのサイクルを加速させることも可能になると考えています。そして、社会価値・環境価値・経済価値の3つの価値を向上に努めてまいります。私どもは、データマネジメント事業を通して、社会に貢献していきたいと考えております」と岩渕氏は取材を締めくくった。
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●お問い合わせ先
株式会社 日立製作所
ビッグデータ×AI(人工知能)
お問い合わせフォーム:https://www.hitachi.co.jp/products/it/bigdata/ask/index.html
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