日光・鬼怒川に鬼怒川温泉ホテルと鬼怒川金谷ホテル、箱根・仙石原にKANAYA RESORT HAKONE、那須高原にTHE KEY HIGHLAND NASUと、4つの宿泊施設を所有・運営する金谷ホテル観光グループ。同社は、ホテル運営以外にも旅や食にまつわる多彩な事業を展開している。近年は新型コロナウイルス感染の諸対策や顧客データの整備統合、顧客体験価値の向上など、業務のデジタル化を加速させている。同ホテルがデジタルに向かう背景には、コロナ禍で遠のいてしまった顧客への思いと、老舗ならではの課題や悩みがあった。グループの多角的な事業展開を牽引するKANAYA RESORTSで取締役 財務・事業戦略部長を務める関兵蔵氏に、デジタルへの取り組みの詳細を聞いた。
ホテルを軸に多彩な事業を展開
日光・鬼怒川渓谷沿いに佇む人気の宿、鬼怒川温泉ホテルと鬼怒川金谷ホテル。前者は、1873(明治6)年開業、現存する日本最古のリゾートホテルの金谷カッテージイン(現・日光金谷ホテル)をルーツに、1931(昭和6)年に同ホテルから独立する形で開業した(写真1)。現在は、ホテル運営を基軸にさまざまな事業を展開する金谷ホテル観光グループの一員である。
近年は、スモールラグジュアリー(注1)、オールインクルーシブ(注2)といった宿泊客の多様なニーズに応えるホテルの運営や、飲食およびギフトショップ事業やショコラ事業(チョコレートの製造販売)など、“老舗・名門旅館”のイメージとはかなり異なる業容・業態に取り組んでいる(図1、写真2)。
注1:高級志向に重点をおいた小規模独立型宿泊施設。
注2:宿泊費、飲食費、施設利用料、サービス料などをすべて含むトータルプランを提供する宿泊施設。
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そんな中で、2020年初頭、国内でも新型コロナウイルスの感染が広がり始め、他の観光・旅行業と同様、金谷ホテル観光グループもその影響を大きく受けた。箱根や那須に展開する小規模ホテルは個人需要をとらえてコロナ禍でも売り上げを伸ばした一方で、団体・法人旅行需要、公共交通機関で観光地に向かう利用者をターゲットとした鬼怒川温泉ホテルや東武鉄道鬼怒川温泉駅前のコンビニ事業などは大きく売り上げを落としてしまったという(図2)。
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コロナ禍をきっかけに、旧来のホテル運営から脱却
非常事態宣言の発令など緊迫した2020年からの2年間は、コロナ対策に追われる日々だった。計画休業の早期実施、東京営業所の廃止、繁忙な事業所へのクロス異動、一部不振事業の新分野への転換などだ。加えて、リスクマネジメントとしてホテル以外の事業の立ち上げや、ブランド価値を生かした他社事業の運営受託などにも取り組んだ。
そうした活動の中で、組織に変化が起こった。「コロナ禍をきっかけに、営業、運営、管理のパワーバランスが変わりました。売上主導型の中で立ち位置が弱かった管理部門が、さまざまな緊急施策の展開を通じて前に出ることになったのです。それまで交わる意識が希薄だった3つの部門が協調する機会になりました」と、金谷ホテル観光グループの事業拡張を牽引するKANAYA RESORTS 取締役 財務・事業戦略部長の関兵蔵氏(写真3)は振り返る。
コロナ前のビジネスモデルではこの先、立ち行かない。そこで同社は以前からの計画も含め、業務のデジタル化を加速させることとなる。関氏は、これまで地方のホテル業でデジタル化の機運が高まらなかった要因について、次の3点を挙げる。
●装置産業であり、設備建物の投資借入と営業収益のバランスに余裕がない
●労働集約型ビジネスであり、従業員の大多数をオペレーションに従事するスタッフが占める。業務内容上、基本的にアナログ的な仕事に終始し、ITに触れる機会が少ない
●売上をつくる集客・営業において、旅行ポータルサイトなど、直販以外のチャネルから集客できる手段が確立されていて、能動的な営業活動の習慣がない
金谷ホテル観光グループも例外ではなく、5年ほど前からある程度IT化の必要性は感じていながら、好調な売り上げや集客に甘えて、変革に取り組めずにいたという。関氏によると、コロナ禍は業務や社内意識を見直す機会と前向きに捉えながらも、いざシステム導入を決めても、自分たちで導入したシステムを使いこなせるのだろうかという懸念を払拭できずにいたという。
「グループ全体で約400人の従業員がいますが、PCをほぼ使用しない業務が中心のサービス・接客スタッフがその大半を占めています。また、PCを日々使う営業や管理部門ですら、新しいシステムとなると、やはりとまどいがあるわけです」(関氏)。
とはいえ、ビジネスの危機を目の当たりにして時間的な余裕はない。外出自粛で団体顧客が減り、東京営業所が廃止になった営業部門をはじめ、各部門・業務でデジタル化の動きが本格化する。
●Next:金谷ホテルが取り組んだ、数々の業務デジタル化の詳細と成果
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