[麻生川静男の欧州ビジネスITトレンド]

ドイツのスマートシティランキング2022年版に見る、電子行政/環境政策の成熟度:第36回

2022年10月31日(月)麻生川 静男

ドイツ IT・通信・ニューメディア産業連合会(Bitkom)がドイツ主要都市におけるスマートシティプロジェクトの調査・評価レポート「Smart City Index 2022」を発表した。この最新ランキングでトップに立ったのはハンブルクで、ミュンヘン、ドレスデンがそれに続く。全体的に見て、旧西ドイツ地区の取り組みが旧東ドイツ地区を凌駕している傾向は変わらないが、以前より上位と下位の差は縮まっている。また、電子行政/デジタル化だけでなく、環境政策も取り組みの中で大きな比重を占めていることが分かる。

スマートシティに向け、環境の取り組みも重視

 本連載の第7回で、ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(Bitkom)が発表したドイツ主要都市のスマートシティへの取り組みをランキング形式で示す「Smart City Index 2019」を紹介した(関連記事日本とは本気度が違う、独主要都市のスマートシティへの取り組み)。今回はそれから3年経過してまとめられた「Smart City Index 2022」から、ドイツのスマートシティの最新状況をお伝えしよう。

 Smart City Index 2022では、ドイツ国内の人口10万人以上の81都市を調査した(ちなみに、日本の同規模の都市は224都市ある)。なお、ランキング全体(1位から81位)はBitkomのWebサイトからダウンロードできる。

 調査項目は「行政」「IT+通信」「エネルギー+環境」「モビリティ」「地域社会」の5分野で、各分野は7項目(行政のみ8項目)で計36項目。さらに調査細目は133項目にわたり、81都市全体では1万773点のデータポイントがある。これらのデータポイントのうち、約85%は各都市からの情報提供によるもの。その他、インターネットから収集した各都市の情報、市町村や国の公式統計データ、第三者による調査などの情報を精査して確定データを作成している。

 Smart City Indexにおけるスマートシティの定義は、単なるデジタル化項目だけでなく、環境問題への取り組みも重視されている。調査項目のいくつかは内容が変更されており、前回と変わっている項目には*印をつけた。

1.行政
 1.1 書類管理システム
 1.2 キャッシュレス決済
 1.3 オンライン予約
 1.4 オンライン公共サービス
 1.5 行政Webサイト+行政SNS
*1.6 住民の苦情受付
 1.7 住民サービスポータル
 1.8 その他・パイロットプロジェクト

2.IT+通信
 2.1 ブロードバンド(1Gbit/s)普及率
 2.2 光ファイバー普及率
*2.3 モバイル通信(5G)普及率
 2.4 公共無線LAN(接続可能性、普及率)
 2.5 LoRaWAN(ゲートウェイ数、コミュニティ有無)
*2.6 データプラットフォーム
 2.7 その他・パイロットプロジェクト

3.エネルギー+環境
*3.1 街路灯(光量に対応して消灯、減灯する)
*3.2 環境センサー
*3.3 エネルギー対応(太陽光発電、バイオマス発電、スマートメーター)
 3.4 電気自動車(登録台数)
 3.5 充電設備(電気自動車用)
 3.6 低排気ガス駆動バス(稼働数、将来計画数)
 3.7 その他・パイロットプロジェクト

4.モビリティ
 4.1 駐車場(スマートパーキング)
 4.2 スマート交通管理システム(スマート信号機、デジタル交通表示)
 4.3 スマート公共交通(リアルタイム情報、自動走行)
 4.4 カーシェアリング
*4.5 マルチモーダリティ(マルチモーダリティ・ステーション)
*4.6 ラストワンマイル輸送(配達会社横断システム)
 4.7 その他・パイロットプロジェクト

5.地域社会
 5.1 住民参加(住民投票権、議論の場)
 5.2 FabLabとコワーキング(施設数)
*5.3 デジタルシーン(デジタル化推進の取り組み)
 5.4 オープンデータプラットフォーム(ODP)
 5.5 地理情報ポータル(情報内容、ユーザーフレンドリーレベル)
*5.6 地域社会の情報交換、スタートアップの支援
 5.7 その他・パイロットプロジェクト

最新ランキングに見るドイツのスマートシティ推進状況

 2022年のランキングリストの上位22都市を以下に示す(表1図1)。

順位 順位変動 都市 総合点 行政 IT+通信 エネルギー+環境 モビリティ 地域社会
1 ハンブルク 86.1 82.4 85.5 70.8 93.7 98.1
2 2 ミュンヘン 85.3 85.3 87.5 71.4 91.4 90.7
3 3 ドレスデン 81.6 79.7 77.2 68.4 87.6 95
4 -2 ケルン 79.4 80.7 85 60.7 87.9 83
5 3 シュトゥットガルト 78.1 84.7 67.4 78.7 82.6 76.8
6 10 ニュルンベルク 77.6 87.3 61.7 63.9 94.2 81.1
7 10 アーヘン 77.3 81.9 64.5 79.7 81.5 79.1
8 -1 ボーフム 77 80.2 72.1 65.5 80.6 86.6
9 10 デュッセルドルフ 76.6 86.7 59.2 66.4 77 93.9
10 -5 ダルムシュタット 75.3 79.5 66.7 77.8 76 76.6
11 -2 ベルリン 75 76.9 67.2 50.8 92.2 87.9
12 8 トリーア 74.9 76.7 74 79.8 59.1 84.8
13 10 マンハイム      74.7 84.4 82 64.4 67.2 75.5
14 -11 カールスルーエ 73.5 83.6 63.5 62.1 74.8 83.6
15 オスナブリュック 73.1 78.6 65.3 59.2 81.4 80.9
16 12 ウルム 72.8 71.7 62.1 80.1 65.8 84.3
17 -6 ゲルゼンキルヘン 72.1 73.7 88.1 58 78.5 65.2
18 -5 ミュンスター 72.5 61.8 75.1 78.3 64.2 83.3
19 3 ドルトムント 71.8 78.5 62.3 61.7 70.8 85.8
20 -10 フライブルク・イム・ブライスガウ 71.1 77.7 61.1 66.5 66.6 83.8
21 -9 ボン 70.8 85.1 60.9 52.7 69.1 86.3
22 -8 ライプツィヒ 70.5 76.5 62.9 56.1 66 90.9

表1:Smart City Index 2022ランキング トップ22(出典:Bitkom)

図1:Smart City Index 2022ランキング トップ22(出典:Bitkom)
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 ドイツのランキングを詳細に説明しても、日本の読者にはあまり意味がない。ここでは、スマートシティのあり方について、我々にも参考となるような点をBitkomの調査レポートからピックアップしよう。

●ハンブルクは、地域社会の分野ではほぼすべての項目において最高得点をマークしている。とりわけ、住民参加、オープンデータ、地理データに関しては全国の模範と言える。

●ハンブルク、ミュンヘン、ライプツィヒの3都市は、共同で「Connected Urban Twins(略称:CUM)」という5年限定のプロジェクトを2021年に立ち上げている。目的は、周辺地域も含めた都市計画のデジタルツイン活用によるデジタル化である。

●ミュンヘンは、ITおよび通信インフラとモビリティの分野で高得点をマーク。自動運転用のテストフィールド「TEMPUS」は将来のネットワーク化されたモビリティの試金石として注目されている。

●総合点で初の3位にランクインしたドレスデンは、旧東ドイツを代表するスマートシティだ。特に、ITおよび通信インフラ、モビリティ、地域社会の分野で強い。高度のセキュリティ機能を備えた市民IDを配布するプロジェクトが進行中である。また、モビリティでは、サイクリストのスマートフォンと信号機を連動させたシステム「BikeNow」のテストも行われている。

●ゲルゼンキルヘンは、ルール工業地帯にある都市だ。都市全体にギガビットEthernet(1Gbit)回線が敷設され、5GやLoRaWANも完備されている。スマートシティの問題を総合的に解決するために、140ヘクタールの広さ(東京ドーム30個分)のオープンイノベーションラボを開設した。

●パーダーボルンは、総合順位は26位と変わらないが、エネルギーおよび環境の分野では2021年から順位を13位上げてトップに立った。パイロットプロジェクト「Awatrees」では、コンピュータが天候に応じて自動的に公園の樹木や街路樹に対し、適切な時間に適切な量の水を散布する。このシステムによって、無駄な水やりを無くし、樹木が枯れるのを防ぐことができる。

 スマートシティの開発を支援する独bee smart cityは、今回の調査結果を次のように総括している。「2022年もハンブルクがトップを維持したが、2位以下との差は以前より小さくなってきている。今回の調査で特に目立ったのは、小都市がデジタル化を果敢に推進し、ランクを上げる努力をしていることだ」。

●Next:標準モデルではなく、自らの土地柄に合ったスマート化を目指す

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