システム内製化が一般的になってきたが、これが手段ではなく、目的になってしまっている状況が見受けられる。内製化は事業会社のIT部門が主体性を取り戻すのに有効な手法だが、当然、すべてを内製化する必要はない。IT部門がベンダーに頼らず、スキルやノウハウを持って取り組まなくてはならないことがある。
システム内製化の動きについては、3年前に本コラム「システム内製化の動きが顕著に、企業は遅れずに実践せよ!」で取り上げた。コロナ前から内製化の動きが顕著になった背景にはいくつかの要素があった。
①米ガートナーが2015年に提唱したバイモーダルITのモード2(Mode 2)と呼ばれる顧客とのつながりを深める事業のフロントのシステム(SoE: System of Engagement)のニーズが高まり、変化に合わせた迅速な開発が必要になったこと。
②経済産業省が2018年に発行したDXレポートで警鐘を鳴らした「2025年の崖」問題に端を発して、デジタルトランスフォーメーション(DX)が経営者を含めて強く意識されるようになり、今でもブームが続いていること。
③アジャイル開発手法やローコード/ノーコードのクラウドサービスが増え、内製開発が容易になったこと。そしてリスキリングも少しずつ浸透して社内の人材育成も進んだこと。
事業会社にとって内製化の動きは望ましく、新しい技術の取り込みや主体性の回復や創造性の向上に役立っている。
内製化は進んだが、手段と目的の取り違えも
しかし内製化が手段ではなく、目的になってしまっている状況が見受けられるのも確かだ。ベンダーに頼らずに業務を自動化できるとして、コロナ前に大ブームになったRPA(Robotic Process Automation)が好例である。その後は段々と下火になり、最近では「RPAはオワコンか?」などの記事も見受けるようになった。
筆者は6年前に「RPA導入と危険な匂い」と題したコラムを書いた。ツール先行の導入で正しい導入のプロセスを踏まないとか、風土改革や働き方改革に結びつかない導入に警鐘を鳴らしたのだ。RPAに罪はなく、正しく使えば有用である。それが「オワコン」とは、どうやら予測が的中して内製化の罠に嵌ったのではないかと思う。
内製化は事業会社が主体性を取り戻すのに極めて有効な手法だが、当然、すべてを内製化する必要はない。特にベンダー企業に多くのIT技術者が在籍する日本では、彼らの力を活用した方が賢い。事業会社が基盤となるシステムを刷新する機会は、そう度々あるわけではないから、テクノロジーの知識や実績は圧倒的にベンダー優位だからである。事業会社が自前で技術者を育成するにも限界がある。
では事業会社は何を内製化すればいいか? 答えはズバリ、システムデザイン(ITシステム全体のデザイン)である。企業の競争力や価値を作り出せるのはシステムデザインにあり、システムの実装手段ではない。だからシステムデザインだけは、ベンダーやコンサルティング会社に丸投げしたり依存したりせず、内製化しなければならない。
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