[木内里美の是正勧告]

RPA導入と危険な匂い

2017年4月17日(月)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

デジタルレイバーの中で実用化が始まっており、耳目にする機会がにわかに増えているのが「RPA(Robotics Process Automation)だ。しかし、ここで勘違いしてはいけないのは、RPAを導入しさえすれば単純作業を自動処理に移行できると夢を描くことである。大切なのはどのようにコンピュータを活用するかのデザイン。ここを軽んじては、本当の果実を手にすることはできない。

 生産性の追求は長く産業・経済社会のテーマであり、利益を生み出すために絶え間ない努力が重ねられてきた。工場の生産ラインには様々な用途の産業ロボットが導入され、人の作業を代替して生産効率を高めてきた。人の腕の動きは7自由度あることから、人と同じように複雑な作業をさせるために7軸の産業用ロボットも開発されている。

 筆者は現場を見るのが好きなので、年に数回は工場を視察させてもらっている。最新の工場では、多軸ロボットが立ち並んで休みなく組み立てをしているシーンを見ることが多い。傍らにはロボットに不向きな細かな作業をする作業員が見受けられるが、人数は明らかに少ない。工場現場の生産性はこうして飛躍的に向上し、いわゆるブルーカラーの省人化が進んできたことを実感する。

 ではホワイトカラーはどうだろうか? コンピュータネットワークと業務処理システムによって改善は進んでいるものの、工場生産のような劇的な生産性向上には至らない。今もルーチン化された単純作業や情報システム間をつなぐ作業など、人為的に処理している作業も多い。この改善に向けて最近注目されだしたのが“デジタルレイバー”と呼ばれる仮想ロボットの導入である。

 工場で働くメカニカルな物理ロボットと異なり、仮想ロボットの実体はソフトウェアである。“ボット”と呼ばれる自動化されたタスク実行アプリケーションもデジタルレイバーの一種だ。物理ロボットであれ仮想ロボットであれ、ロボティックスの時代は確実に訪れつつあり、人間の生活や労働そのものが大きく変革していく可能性を秘めている。

RPA導入に死屍累々の予感

 デジタルレイバーの中で実用化が始まっているのが、RPA(Robotics Process Automation)である。RPAは単純な繰り返し作業やルール化できる作業、あるいは自動処理が向いている作業などに適用され、人をそれらの作業から解放する。古くからある自動演奏装置を動かしているソフトウェアを想像するとわかりやすいかもしれない。

 AI(人工知能)を組み合わせて、複雑なプロセスや予測判断が必要な作業もこなすRPAも登場し始めている。RPAの具体的な適用例は、旅費精算業務やコールセンター業務、住宅ローン融資登録、買掛金処理など多岐にわたっている。RPAに置き換えることができる日常業務は予想以上に多いのではないだろうか。

 しかし、ここで勘違いしてはいけないことがある。それはRPAを導入しさえすれば単純作業を自動処理に移行できると夢を描くことである。RPAはツールでしかない。ツールが機能するためには導入の手順もあるし、風土改革から始めなければならないこともある。筆者は経験から、RPAの導入には業務の可視化が必須だと考える。多くの業務は属人化していて人に業務がつき、ブラックボックスになっているからだ。

 可視化すればどの業務プロセスが自動処理に適しているか、適していないかが明確になる。情報システム作りに要件定義や外部設計(基本設計)が必要なのと同じく、RPAではこの前処理が欠かせない。RPAツールは導入コストが比較的安価であることから、業務プロセスの可視化や標準化を疎かにして安易な導入を行うと、失敗してもその失敗が隠されてしまう恐れがある。RPAと可視化、標準化は密接である。

 「そんなことは分かっている」というかもしれない。それなら問題はないが、導入して失敗事例が多かったナレッジマネジメントツールを思い出してほしい。ERPも含めてホワイトカラー業務へのIT適用には、この種のケースが多い。RPAにも同様の懸念があり、死屍累々の予感はそこにある。

●Next:働き方改革の本質はどこにあるか

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