[ザ・プロジェクト]
“オフィスの再定義/働き方の実験場”─コクヨの「THE CAMPUS」に見る、これからのワークプレイス
2023年9月1日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)
文具・オフィス家具メーカーのコクヨが、創業125周年にあたる2030年に向けて事業創出と領域拡大を進めている。その一環で2021年2月に開設したのが、新たな価値創造のための「THE CAMPUS」(東京都港区)。さまざまなデータを駆使してオフィス、働き方の可視化を進めている。取り組みを牽引する同社 ワークプレイス事業本部 スペースソリューション本部 ワークスタイルイノベーション部 部長の伊藤毅氏に、THE CAMPUSのコンセプトや次世代のワークプレイスに向けた取り組み、同拠点を起点にした今後の活動を聞いた。
「森林経営モデル」へのトランスフォーメーション
1905年、和式帳簿の表紙を製造する黒田表紙店を開業してから118年の歴史を重ねて業容を広げてきたコクヨ。文具・オフィス家具製造・販売をはじめ、オフィス設計・空間デザイン、オフィス通販「カウネット」などを展開している。2021年2月には、2030年に向けた「長期ビジョン CCC2030」を発表し、戦略投資による事業創出と領域の拡大を推進している。CCCは、Change/Challenge/Createの頭文字を取ったものだ。
そのビジョンの核となっているのが「森林経営モデル」へのシフトだ。グループ共通資産である実験カルチャーを「土壌」とし、その上で複数の事業の「幹」を育て、数多くの事業で構成される「森」を作り上げていくというモデルである(図1)。
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コクヨ ワークプレイス事業本部 スペースソリューション本部 ワークスタイルイノベーション部 部長の伊藤毅氏(写真1)は次のように説明する。「現在の主要事業は太い幹にあたり、支える土壌の中には、これまで培ってきた事業や業務のノウハウやデータ、人材に関する情報が詰まっています。それらを活用しながら新たな幹を育て、事業を多角的に広げていくという取り組みです」
THE CAMPUSのコンセプトと、目指したワークプレイスのあり方
そのような、コクヨが描く将来へのビジョンの第一歩が、東京品川オフィス及び東京ショールームの自社ビルを改装し、2021年2月に開設した「THE CAMPUS(ザ・キャンパス)」だ。「NEXT EXPERIENCE」(=長期的視点で社会課題解決に取り組んでいくこと)の活動を通じて、未来につながる価値を探究するため、様々な専門性や経験を持つ人々と全館通して実験・実践する場所となることを目指している。
THE CAMPUSは地上11階建て(南館)と地上5階建て(北館)の2棟の建物からなり、顧客や地域住民が利用できるパブリックエリアとコクヨのオフィスを併設する(写真2)。パブリックエリアには、コクヨ製品を取り扱うショップやコーヒースタンドを設置。交流イベントなどを開催し、社員に限らず地域にも開かれたスペースとして、働くことや暮らすことをより豊かにする、新しいワーク&ライフの世界を提案している。
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オフィスエリアは、複数のメンバーでコラボレーションするスペース、個人が仕事やWeb会議に集中するスペースと、ハイブリッドワーク時代にふさわしいレイアウトが凝らされている。
「これまで一般的だったのは社員個人の席があり、必要に応じて会議室に移動する労働集約型オフィスでした。テレワークの浸透で、多くのオフィスワーカーはこれまで出勤して行っていた仕事の多くは自宅でもできることに気づいています。ですから、これからのオフィスは、自宅とは違う機能や要素が必要とされるのです」(伊藤氏)。
加えて、新しい働き方に関する検証や実験を行う場としても機能する。例えば、エリア以内での人々の動きや空間の使われ方などを可視化するシステムが組み込まれている。
最先端のオフィスエリアは見学が可能だ。オフィス家具を扱うことから、コクヨは1969年から「ライブオフィス」として、訪問者のオフィス見学を実施してきた。THE CAMPUSでも4~8階のオフィスが見学エリアとなっている(写真3)。
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オフィスのビッグデータ─1日30万件超のデータを収集・分析
オフィスエリアを詳細に見ていくと、「捗る」「集う」「試す」「育む」「整う」などのテーマがフロアごとに設定されている。社員が仕事の内容と目的に合わせて、最適な場所やテクノロジーを自由に選択できるABW(Activity Based Working)の働き方を取り入れた結果だ。
そして先端的なのが、フロアに約400個のビーコンを設置し、スマートフォンの位置情報、IDカードを使った出社状況などのさまざまなデータを1日に30万件以上も取得していることだ。正にオフィスのビッグデータである。
コクヨは、こうして集めたオフィスの多様な情報・データを、セールスフォース・ジャパンのBIプラットフォーム「Tableau Cloud」に集約し、オフィス環境・状況の可視化に取り組んでいる。
伊藤氏によると、当初は情報システム部にオフィス内のエリアごとの状況を表すヒートマップの作成を依頼していたが、「オフィスは生き物なので、完成後もレイアウトを細々と修正しがちです。改装のたびにヒートマップ画面の変更が必要で、そのたびに情報システム部に修正を依頼していました。ここに相当な手間と時間がかかってしまいました」(同氏)。
伊藤氏はTableauで何とかしたいと考え、THE CAMPUSの開設後、情報システム部門の知見やセールスフォースのパートナーの力を借りながら、自ら手を動かしてTableauの活用に取り組んだ。そして2021年7月に、THE CAMPUSのオフィス可視化ダッシュボードの内製開発が完了した。
伊藤氏はTableauを選んだ理由として、1日30万件以上のデータを無制限に扱えること、仮説検証を迅速に行えること、ビジュアライズされたグラフや表が見やすく、分析結果を効果的に示せることを挙げている。
●Next:データに基づくオフィス改装を推進、培った知見を生かしたオフィス可視化クラウドサービスの外販も
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