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「アミノ酸から新天地開拓へ」─事業成長と社会課題解決に向けた味の素のDX

2024年4月18日(木)指田 昌夫(フリーランスライター)

大手食品メーカーの味の素(本社:東京都中央区)が全社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を掲げて、デジタルを駆使した事業を加速させている。2024年2月に開催された「Manufacturing Japan Summit」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド)に、味の素 執行役専務CDOの香田隆之氏が登壇。「アミノ酸から新天地開拓へ」と題した講演で、同社のDXアクションを紹介した。

アミノ酸を成長の源泉にする事業改革に着手

 味の素は、経営トップの藤江太郎氏(取締役 代表執行役社長 最高経営責任者)の下、自社の強みであるアミノサイエンスを生かした「中期ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)経営」を進めている。アミノサイエンスとは、100年以上にわたるアミノ酸のはたらきの研究や実装化のプロセスから生み出した、「味の素」をはじめとする商品・素材・技術・サービスと、その科学的アプローチを指す造語である。

 中期ASV経営では、2030年にありたい姿として「アミノサイエンスで人・社会・地球のWell-Beingに貢献する」をパーパスに掲げている。具体的には、10億人の健康寿命延伸を実現すると同時に、自社の活動による環境負荷を50%削減することを目標とし、ブレイクダウンした各種目標値を「ASV指標」として設定する(図1)。

図1:味の素グループの成長戦略(出典:味の素)
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 「ASV経営の本質は、事業が生み出す社会的価値と、経済価値を両立させながら成長することです」と、同社の香田隆之氏(写真1)は説明する。同氏は1989年に入社以来、九州、タイ、北米で生産技術畑を歩み、現在は同社専務、およびCDOとしてDXを主導しているデジタルリーダーである。

写真1:味の素 執行役専務CDOの香田隆之氏

 味の素の従来のパーパスは、「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」だった。香田氏は、「これだと、マイナスをゼロにするイメージしかありません。社長の藤江は常に『エベレストを目指せ、富士山ではない』と社内で話しています。成長にシフトするために、パーパスを変え、マネジメントを変え、社内の構造変革を進めています」と語る。
 経営計画も従来の積み上げ型の中期計画を廃止。まず2030年の経営目標を設定し、そこからバックキャストして各年度にすべきことを定めている。

 現在、同社の事業利益は食品とアミノサイエンス系事業の比率が2:1だが、その両方の事業を成長させながら、事業構造の変革によって2030年には1:1にしていくことを目指す。そのために、ヘルスケア、ICT、フード&ウェルネス、グリーンの4つを重点領域に設定して成長を図るとしている(図2)。

図2:構造改革から成長へのシフト(出典:味の素)
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DXを4つのステージに分けて推進

 味の素においてDXは、事業成長のスピードアップとスケールアップを目指した、企業変革を実現する手段と位置づけられている。「主体は“X=Transformation”のほうで、Digitalはそれを実現する強力な武器。掲げるASV目標の数字を達成するための取り組みとなります」(香田氏)

 この基本スタンスの下で、同社はDXを「1.0」から「4.0」4つのステージに分けて取り組んでいる。なお、4段階の前提として、「0.0」にこれまで取り組んできたデジタル化による働き方改革を置いている(図3)。

図3:DXの4つのステージ(出典:味の素)
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 DX1.0は、全社のオペレーション変革との定義である。味の素の各組織はそれぞれに強い独立性を持っており、組織の壁も固かったという。

 「組織ごとにベストを尽くして、それを掛け算すれば会社としてベストになる、というのが従来の考え方でしたが、これは限界に来ていると考えます。これからは組織の前後にある機能も含め、お客様の視点でデータに基づいた全体最適で業務を実行しなければなりません。この考え方を浸透させるために、オペレーショナルエクセレンスを導入しています」(香田氏)

 個別最適の一例として、香田氏は世界各地の拠点と本社部門との間でやりとりされる大量のスプレッドシートを挙げ、こう振り返る。「担当者がシステムからデータをスプレッドシートに抽出して、そのファイルをメールでやりとりする方法が標準だったのです。結果、拠点掛ける部門の数だけシートが飛び交っていました」。

 この状態を解消するため、味の素は、全社のデータマネジメントプラットフォーム(DMP)の構築に挑んでいる。「全社的なデータ基盤の構築と共に、データを扱う組織とルールの制定、そしてデータを効率的に活用するための人材の改革も進めています。特に人材面では『ビジネスDX人材教育体系』の整備に取り組みました」(香田氏)。

 「ビジネスDX人材」は初級、中級、上級の3レベルを設定し、社員に教育プログラムを提供する。同社では教育はあくまで自己研鑽のために時間外に行うルールがあるが、すでに83%もの社員が受講済みだという。

 スマートファクトリーの取り組みも、DX1.0に位置づける。同社の生産子会社の食品工場で、AIによる乾燥野菜の異物除去を可能にしたほか、梱包工程のデータをクラウドに載せ、管理者のスマートフォンアプリで状態把握ができるようにしている。

●Next:DX2.0からDX4.0へ、味の素が目指すX=Transformationの最終形は

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