[ザ・プロジェクト]

「早く失敗し、早く学べ」─生成AIやCPSの活用が導くロート製薬のデジタル変革

ロート製薬 執行役員 CIO 板橋祐一氏

2024年7月30日(火)愛甲 峻(IT Leaders編集部)

ロート製薬(本社:大阪府大阪市)が「社員の能力の最大化」を目指し、業務プロセスや生産現場のデジタル活用を推進している。2024年5月14日・15日に開催された「CIO Japan Summit 2024」(主催:マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド)に、同社 執行役員 CIOの板橋祐一氏が登壇。企業がデジタル化を進めるうえでの考え方や全社的な生成AIの業務活用、CPS(サイバーフィジカルシステム)を実装したスマートファクトリーの取り組みについて説明した。

 1899年創業の老舗であるロート製薬は、胃薬などの内服薬や目薬などのアイケア製品、スキンケア関連製品を展開する。特にスキンケア関連製品は、製薬メーカーならではの科学的なアプローチを訴求し、近年では売上構成比の6割を占める。2023年度の売上は2708億円で、海外売り上げ比率も高い(図1)。

図1:ロート製薬の歴史と業績(出典:ロート製薬)
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 「ロート製薬がデジタル活用で目指すのは、社員の能力の最大化だ」と、同社 執行役員 CIOの板橋祐一氏(写真1)は力を込める。今日、さまざまな産業において、デジタルがビジネスモデルや顧客体験を変化させているが、同社が目薬や内服薬、スキンケア製品などを通じて提供する本質的な価値は当面、デジタル化する可能性は低いと板橋氏。そのため、事業を構成する、社員のさまざまな仕事の仕組みをデジタルで変革することに注力しているという。

写真1:ロート製薬 執行役員 CIO IT/AI推進室 DX推進オフィサーの板橋祐一氏

 前職の富士フイルムでデジタルマーケティング戦略室長を務めた板橋氏は、当時の経験を振り返った。写真/カメラのビジネスの中心がフィルムからデジタルへの転換を経て、InstagramやLINEなどに代表されるSNSプラットフォームへと移る中、富士フイルムは本業喪失の危機に直面する。打開策として、長年のフィルム開発で培った技術の転用/応用や既存のカメラ製品の付加価値向上に注力した結果、市場の変化に柔軟に対応することができたという。板橋氏は、同社の変革期を支えたデジタル活用を旗振り役として牽引した経験を踏まえながら、ロート製薬におけるDXの取り組みについて説明した。

社員ひとりひとりがデジタルを「乗りこなす」ことが必要

 デジタル化を推進し、成果につなげるためのポイントを、板橋氏は自動車の普及によるモータリゼーション(車社会化)を例に挙げて説明した。20世紀初頭の米国では、それまで主要な移動手段であった馬車が、大量生産化による自動車の普及によって急速に姿を消した。自動車は大衆の移動を容易にし、社会全体に大きな変革をもたらした。

 モータリゼーションによる変革の着眼点として、板橋氏は自動車の運転技術を身につけたドライバーの大量出現を挙げる。産業や社会で起こった劇的な変化は、大衆が運転のスキルを身に着けたことが前提になっているという。

 板橋氏は、今日のデジタル化にも同じことが当てはまるとして、「デジタルの活用をビジネス・業務における変革として結実させるには、従業員の多くが必要なスキルを身に着けることが前提になる」と説く。

 データは21世紀のオイルと形容される重要な経営資源だが、「データが燃料だとすれば、AIはエンジン、BIツールはダッシュボードにたとえられる」と板橋氏。デジタルによる変革のために、まずはこれらのテクノロジーを扱うスキルを身に着け、自動車のように「乗りこなす」ことが重要であるという。「社員ひとりひとりが特徴を理解し、業務に使うことから新たな発想が生まれる」(板橋氏、図2)。

図2:データは燃料、AIはエンジン、BIツールはダッシュボード(出典:ロート製薬)
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 ただし、自動車で目的地に安全かつ迅速に到達するには、運転技術だけでなく、交通ルールや地図の理解と状況判断が求められる。「デジタル活用においても同様に、スキル習得だけでなく、企業が提供する価値とデジタルをどのように掛け合わせ、新たな価値を生み出せるかを考える必要がある」(板橋氏)。

 組織にデジタル活用を根づかせるためには、体制も重要であると板橋氏。DXはCDO(Chief Digital Officer)の号令でスムーズに実現に向かうような、たやすいものではもちろんなく、体制を整備したうえで、全社で取り組む地道な実践の先にあるということだ。

 多くの企業は「DX推進本部」のような専門組織を設置して進めようとするが、「経験上そのようなやり方はおすすめしない」(板橋氏)とし、多くの社員がデジタル活用を他人事と捉え、専門部隊に任せてしまう危険性を指摘した。

 板橋氏が推奨するのは、各部門にデジタル活用を牽引するリーダーを任命・配備する体制だ(図3)。リーダーが部門ごとに最適な形で、デジタル化の推進をサポートすることにより、社員がデジタル活用に自分事として取り組むようになると助言する。

図3:各部門にデジタル活用を牽引するリーダーを配備(出典:ロート製薬)
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自社開発の生成AIアプリで目指す「脱Excel」

 「社員の能力の最大化」を掲げるロート製薬のデジタル活用の取り組みについて、板橋氏は2つのテクノロジーの導入を切り口に説明した。(1)生成AIによる業務プロセスの効率化と、(2)CPS(サイバーフィジカルシステム)によるスマートファクトリーである。

●Next:社員の能力の最大化に向けた具体施策

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