[ザ・プロジェクト]

デジタルで磨き、尖らす「モノづくり力」─古河電工のDX実践

“デジタルソリューションの型”で事業部門を支える推進組織「DXIC」

2024年11月29日(金)神 幸葉(IT Leaders編集部)

創業140年を迎えた古河電気工業(本社:東京都千代田区)が「モノづくり力の向上」をスローガンに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させている。全社の取り組みを牽引するデジタル推進組織が、2023年4月設立のデジタルトランスフォーメーション&イノベーションセンター(DXIC)だ。そのセンター長を務める野村剛彦氏に、データの高度活用や最新AIの適用といった施策、DX人材の教育・育成など、古河電工 のモノづくりDXを推進する種々の取り組みを聞いた。

デジタルを駆使したモノづくり力向上を牽引する組織

 1884(明治17)年に創業、140年もの歴史を持つ非鉄金属のグローバルメーカーである古河電気工業。メタル、ポリマー、フォトニクス、高周波というコア技術を強みに、インフラ、電装エレクトロニクス、機能製品の3つの事業セグメントにおいて種々の製品を展開している(図1)。

図1:事業セグメントと2023年度売上高(出典:古河電気工業)
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 近年は「モノづくり力の向上」を掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進めている。それを牽引する組織がデジタルトランスフォーメーション&イノベーションセンター(DXIC)だ。

 同組織は、2017年に同社の研究開発本部にAI/IoTの活用を推進する課が発足したことに端を発する。ここでボトムアップの形でAIを用いたモノづくりの現場における自動化・効率化の検討が本格化し、現場主導型の活動が強化される。2020年4月には同本部内にデジタルイノベーションセンター(DIC)として部門化している。

 古河電気工業 戦略本部 DX&イノベーションセンター(DXIC)センター長の野村剛彦氏(写真1)は、「当社グループ全体として、モノづくり・コトづくりにAI/IoTを積極的に適用し、活用事例を増やしていく狙いがありました」と説明する。

写真1:古河電気工業 戦略本部 DX&イノベーションセンター(DXIC)センター長の野村剛彦氏

 大きな役割を担うことになったDICは、2022年4月に戦略本部に移管され、DX施策の立ち上げや人材教育・トレーニング体制の強化を図る。2023年4月にはICT戦略企画部と統合し、野村氏がセンター長を務める現在のDXICとなった。

 現在は約50人が在籍し、AIシステムの構築、データサイエンティスト/データ人材の教育・育成、モノづくりDXの企画、コーポレート機能の業務標準化・改革推進、ITガバナンスやネットワークの整備など多方面で活動している。

 古河電工は、2030年にあるべき姿として、あらゆる業務におけるデータの高度活用が全社員に浸透している組織を描いている。その取り組みの中心に、デジタルの旗手としてのDXICが置かれ、各事業部門が取り組むモノづくりDXの牽引・支援がミッションとなっている。

DXを阻む課題と、解決への打ち手

 古河電工がDXに向かう過程で顕在化したのが、工場・制御系システム群の老朽化、データ化の遅れ、デジタル活用の成熟度の低さ、グループのITガバナンスやデジタル推進体制組織の不十分といった諸課題である。

 これらの解決がなされなければDXには向かえない。そこで取り組みの柱に掲げられたのが、「工場系システムの刷新」「データ蓄積とデータ/デジタル活用の“当たり前化”」「ITガバナンス強化」「DX推進組織の組織強化」の4点である(図2)。

図2:課題認識とDX推進の柱(出典:古河電気工業)
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 具体的に何をなすべきか。古河電工が打ち出したのは、「データ環境を整える」「活用シーンを拡大する」「データ活用スキルを育成/当たり前化する」の3つのポイントである(図3)。

図3:DX推進のポイントと施策展開(出典:古河電気工業)
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活動の根源となるインフラをIT/OTともに整備

 あらゆる取り組みの根源とも言える、データ活用のための基盤整備は、レガシーシステムの刷新として2022年5月に導入した新たな基幹業務システム「SAP S/4HANA」の下で取り組まれた。

 例えば、各種業務データの集計に多大な時間がかかり、フィードバックが遅延していた問題は、S/4HANAとSalesforceのデータ連携などを施した経営ダッシュボードにより、データから営業活動への反映が直ちになされる環境を整えている。経営の可視化が進み、詳細データをドリルダウンしてタイムリーに意思決定するデータドリブンなアクションがスタートしている。

 また、懸案のOT/工場系システムについては、「工場単位で見ると業務は問題なく回っていたが、全体最適には至らなかった」(野村氏)のが以前の環境だ。

 多種多様な製品・部品を製造する同社では工場ごとにシステムも異なっていたため、データサイロが生じ、非効率が生じていたという。それを、事業横断型を指向した製造実行管理システムを導入して、共通化・標準化を進めている。

“デジタルソリューションの型”で事業部門の活用を迅速化

 こうしてインフラが整い、広範な領域でDXを推し進めていくにあたって、DXIC/デジタルソリューション部は、事業部門の施策を“ソリューションで支える”役目を担う。具体的には、事業部門の抱える諸課題に照らして、データの収集・蓄積・加工・活用の仕組みを“デジタルソリューションの型”として整備。事業部門が直ちに活用できるようにする。

 例えば、ある製品の製造過程では、製品歩留率の悪化やデータの散逸による要因分析の困難さといった課題を抱えていた。そこで、デジタルソリューション部が重要工程データを自動収集して分析・活用できる仕組みを構築。データ異常の早期検出、フィードバック・要因分析の迅速化を図った。「これまでは、いわゆる、ベテランの“匠の技”で調整していたものを、データとAIの組み合わせでフォローできるようになりました」(野村氏)。

 ほかにも、同様の異常検知・最適化として、製造工程中で規格外れが発生する予兆を検知して、規格外れを抑制可能な製造条件を提案するシステムを構築した。これについては、デジタルソリューションの型がうまく合致し、6カ月という短期間で稼働に進めている。

画像判別AIによる画像検査の自動化

 精密な機器の製造に携わる古河電工にとって、品質管理は最重要のミッションの1つだ。かつては従業員が1日中顕微鏡で目視検査している光景も珍しくなかったという。この画像検査工程において、AIを活用して自動化を図っている。目視検査が行われている全社の製造工程を対象に、画像判別AIの開発、運用フローの定型化・自動化を実現している(図4)。

 ある製品では、検査装置による画像検査でNG判定が頻発し、再度目視検査を行う必要があったが、AIの導入によって、流出率、過検出率の目標をクリアし、目視検査工程が不要になった。

図4:AI画像検査の型(出典:古河電気工業)
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●Next:AIによる材料開発の効率化、DX人材の育成・教育と内製化がもたらした効果

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