CRMで痛い目を見た企業は少なくない。営業業務の高度化を目指して取り組んだものの、肝心の営業担当者の理解を得られず、使われなくなってしまうようなケースだ。首都圏を中心に住宅リフォーム事業を展開するゆとりフォーム(本社:東京都豊島区、2015年10月よりBXゆとりフォームに社名変更)は、営業担当者のマインド改革に地道に取り組むことでCRMを根付かせようとしている。聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉
- 小林 茂晴 氏
- ゆとりフォーム 営業部 首都圏ブロック長
- 1998年に文化シヤッターゆとりフォーム事業部(現・ゆとりフォーム)入社。板橋店リフォームアドバイザーや地区リーダー、墨田店店長を歴任。2004年から首都圏22店舗を統括する現職に就く。
- 加藤 武志 氏
- ゆとりフォーム 営業部 係長
- 2002年に文化シヤッターゆとりフォーム事業部(現・ゆとりフォーム)入社。墨田店リフォームアドバイザーや地区リーダーを経て、2007年から現職。2008年からのCRM導入プロジェクトでリーダーを務めた。
─ 2008年6月に、CRMを導入したそうですね。今日はそのことについて伺いますが、その前に御社について教えてください。
小林: 当社は修理や営繕、大規模改修などを請け負う住宅リフォーム業者です。1997年に文化シヤッターの事業部としてスタートし、2006年に分社独立しました。現在、東京や神奈川、埼玉といった首都圏を中心に約20店舗を展開しています。施工数は、1年間に約1万8000件。これは、首都圏に限って言うと業界トップクラスなんですよ。
─ 自社で工事も実施するんですか。
小林: いいえ。工事自体は約1000社ある協力会社に委託しています。
─ つまり、営業が業務の主体ということですね。これまで、SFAやCRMといったシステムを使ったことはなかった?
小林: 実はあります。1999年に、クラリファイというベンダーのCRMシステムを5000万円近くかけて導入しました。でも、活用しきれていなかった。
─ せっかくのシステムがほこりをかぶっていた。
小林: 全く使っていなかったわけではないです。電話受け付け業務にこのシステムが持つCTIを利用していました。
─ CTIというと、顧客から電話がかかってきたとき、その顧客の取引履歴をパソコン画面に表示する機能ですね。
小林: そう。それから、地域特性に応じて販促チラシを制作し配布するためのデータ分析にも使っていました。ただし、CRMとしては使っていなかった。
─ そういう経験がありながら、CRMにこだわるのはなぜですか。
小林: とにかく営業の生産性を上げたい。そんな思いからです。
4年前に営業プロセスを標準化
小林: これまで当社の営業業務は新聞の折り込みチラシに大きく依存してきましたが、その費用対効果はあまりよくないんです。チラシを見ての問い合わせには、1件当たり7万円のコストがかかっている。平均受注単価は40万〜50万円ですから、このコストがいかに収益を圧迫しているかお分かりいただけるでしょう。しかも、問い合わせのあった顧客のうち、実際に受注にこぎつけるのは半数でした。
─ 7万円かけて問い合わせが来ても、2件に1件は失注してしまっていた。
小林: その最大の理由は、営業情報がブラックボックス化していることでした。商談に関する情報を、営業担当者が個別に抱え込んでいたんです。その結果、多くの受注チャンスをみすみす逃していました。
─ どういうこと?
加藤: 受注に至る前に、顧客との接触が途切れてしまっていたんですよ。「顧客から電話で問い合わせを受けて一度は訪問したが、それっきり」とか、「再見積もりの依頼を放置している」とか。
小林: その一方で、既存顧客のケアもできていなかった。
─ 既存顧客というと、以前にリフォームした人ですよね。またリフォームする可能性があるんですか?
加藤: この市場は、リピート客が多いんです。例えば、トイレを改修してすっきりすると、今度は風呂場のすきま風を何とかしたくなる。だいたい、初回リフォームの1カ月後と3カ月後にリピートオーダーしてくるケースが多いです。
─ ということは既存顧客の管理は重要ですね。
小林: 我々としては、新規開拓もさることながら、そうした既存顧客のニーズをしっかりつかまえたい。そこで2005年、「営業担当者の行動指針」を作ったんです。
─ それはどういう指針ですか。
小林: 営業プロセスを細かく定義したものです。例えば、新規顧客に対するアプローチの仕方を「初回訪問」「現場調査」「見積もり/再見積もり」「クロージング」といったフェーズに分け、それぞれでやるべきことを明文化した。
加藤: このほか、「工事後も既存顧客を定期訪問する」「施工中は現場の近隣の家にあいさつする」といった細かな事柄までをプロセス化しました。
─ 受注獲得や顧客への接し方を標準化したわけですね。
小林: はい。しかし、こうしたプロセスを管理する道具はせいぜいExcelどまり。店舗によっては紙で管理しているところもありました。営業を統括する私としては、受注実績だけでなく、案件ごとの進捗状況を全社で一元管理し、営業プロセスを“見える化”できる仕組みがほしかった。
─ そこで、CRMシステムを導入しようと考えた。
小林: そういうことです。ただ、費用の問題からなかなか踏み切れませんでした。実際、ある国産ベンダーに聞いたところ、当社の規模でCRMを入れると1億円かかると言う。費用対効果を考えても、そこまでの投資は不可能でした。
─ いったんはあきらめた。でも、いつかは入れたいという気持ちは変わらなかったんですよね。
小林: むしろ、ますます強まりました。CRM導入が現実味を帯びてきたのは、2007年10月のことです。
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