野村不動産は、分譲マンションブランド「プラウド」の顧客戦略を支えるWebサイトにクラウド基盤サービスを活用した。大量アクセスに耐える構成を実現し、未来のマンション購入者の確実な取り込みを目指す。(聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉)
- 松岡 秀明 氏
- 野村不動産 住宅カンパニー 住宅販売部 営業企画課 担当課長
- 1992年4月、野村不動産に入社。都市開発や住宅販売を経験し、2001年4月からIT戦略推進室にてネットプロモーションを担当する。2006年6月、不動産ネット広告代理店であるプライムクロスを社内ベンチャーで設立。2009年10月から現職。ブランド広告やWebプロモーション全般を担当している
- 阿部 浩明 氏
- 野村不動産 住宅カンパニー 住宅販売部 営業企画課
- 2004年4月、野村不動産に入社。IT戦略推進室にて社内IT戦略の企画・立案・推進業務を経験し、2006年に住宅カンパニーに配属。現在は、主に住宅に関するホームページシステムや、社内業務システムなど、社内外システム全般の企画・運用を担う。今回のプロジェクトでは、要件の取りまとめや仕様策定を担当した
- 伴 忠章 氏
- IDCフロンティア ビジネス開発本部 営業部 部長
- 1995年、国際デジタル通信(現・IDCフロンティア)入社。2001年より、データセンター事業の立ち上げや運用企画、技術のマネジャーを歴任。2004年からサービス企画を担当し、現在はNOAHプラットフォームサービスの企画・開発・市場導入を推進。今回のプロジェクトでは、ベンダー側の責任者を務めた
- 沼野 秀吾 氏
- IDCフロンティア ビジネス開発本部 営業部 営業グループ 担当課長
- 1996年、国際デジタル通信(現・IDCフロンティア)入社。2003年より、バックボーンネットワークの設計・構築・運用を担当。2008年からはソリューションエンジニアとして、顧客企業への提案や、プロジェクトマネジメント業務を担当。今回のプロジェクトでは、プロジェクトマネジャーを担当した
─野村不動産は、自社の分譲マンションブランドである「プラウド」の販売促進にインターネットを積極活用しているそうですね。
松岡:はい。プラウドというブランドを立ち上げたのは2002年ですが、Webサイトやメールマガジンといったインターネット技術を駆使した販売戦略を展開し始めたのはそれより前。2000年ごろにさかのぼります。
─10年にわたり、様々な知見を蓄積してきたわけですね。
松岡:ええ。インターネットによる販促は、紙のチラシやDMに比べてモデルルームへの来場や実際の物件購入につながりやすい。その一方で、制作費や配送費といったコストは圧倒的に安い。これまでの取り組みから、そうした事実が明らかになっています。
抜群の集客効果の裏に深刻なシステム負荷
─今回、インターネット戦略の一翼を担う会員向けWebサイトをクラウド化したということですが。
松岡:はい。従来は自社のサーバー環境で構築・運用していたサイトの一部を、IDCフロンティアのクラウド基盤サービスである「NOAHプラットフォームサービス」に移行したんですよ。
─その前に、会員向けサイトの役割を教えてください。
松岡:「プラウドクラブ」と呼ぶ会員組織への入会やモデルルームへの来場申し込みを促進するためのWebサイトです。その役割を一言で言うと、会員を集めて育てることです。
─会員を育てる?
松岡:私たちは、会員を3層構造でとらえています。第1層は、すぐ買いたい人たち。第2層は、1年以内には買いたい人たち。第3層は「具体的な購入予定はないが、将来に備えて情報収集しておきたい」という人たちです。
─なるほど。
松岡:会員に、第3層から第2層、第1層へと移行してもらい、モデルルームへの来場や、もっと言えば物件購入へのモチベーションを高めてもらうこと。それがこのサイトの目指すところです。このため、販売中の物件情報やマンション購入に役立つ知識といった各種コンテンツを提供しています。
─ちなみに、現在の会員数は?
松岡:16万人強です。
─サイトの役割は分かりました。それで、このサイトにどんな問題があったんですか。
松岡:プラウドというブランドでは1年に2回、それぞれ2〜3カ月程度の大規模なキャンペーンを実施します。キャンペーン期間中は、テレビや新聞、電車内の広告スペースといった媒体を使って大量のプロモーションを打つんです。最近では、アフィリエイト広告も活用。こうしたメディアミックス戦略により、プラウドの認知度を上げようというわけです。当然ながら、キャンペーン期間中にプラウドサイトへのアクセスは急増します。
─それが狙いですよね。喜ばしいことでは。
松岡:それはそうなんですが、別の問題が起きていた。アクセス集中により、ネットワークやサーバーに大きな負荷がかかっていたんです。
阿部:例えば、アフィリエイト業者のメールが配信されると、1時間に数万件のアクセスが集中することもある。しかも、顧客がまずアクセスするトップ画面は、フルフラッシュで制作しているので“重たい”んですよ。
─つまり、キャンペーン中はサイトへのアクセス数だけでなくトラフィック量も跳ね上がるということですね。
阿部:はい。アフィリエイト広告の配信タイミングはこちらでコントロールできませんから、突如大量のトラフィックが発生することもあります。このため、いきなりサイトの表示が遅くなる、はたまたサーバー自体に不具合が発生する、といった問題が起きていました。
松岡:それだけではありません。プラウドクラブのサイトへのアクセス集中は、同じネットワークにつながる他部門のWebサイトの応答速度に影響を及ぼすこともありました。
阿部:そう。社内のシステム部門からは「これ以上、アクセス数を増やすようなことをしてもらっては困る」と常々注意されていました。
松岡:このため、さらなる会員増を目指してプロモーションを強化したくても、システム的な制約でなかなか実現できない。そんなジレンマを抱えていたんですよ。
マンションサイトに画面のリッチさは不可欠
─トップ画面のフラッシュをやめて、もっとシンプルにするという選択肢もあったのでは。
松岡:いいえ、そこは譲れません。我々が販売しているのは、マンションという高額商品です。サイトでも、それに見合った高級感を出さないと。サイトを訪れてくれた顧客に、いかに「ワクワク・ドキドキ感」を感じてもらえるかが重要なんです。例えば、オープニングムービーでは、画面左上からタペストリーがするりと下りてきて風になびく。その質感にもこだわっています。
─サイトのクオリティは落としたくない。だったら住宅サイトだけ別の環境にするとか。
阿部:当然それも考えましたが、ハードやソフトを新規導入し運用するにはそれなりの費用がかかります。サイトの規模から言っても、そこまでのコストはかけられなかった。
─それでクラウドというわけですか。クラウドであれば、必要なときに必要なだけのリソースを利用し、それに見合った料金を払えばよい。もっと早く検討してもよかったのでは。
阿部:もちろん、考えたことはありますよ。でも、なかなか踏み出せなかった。というのも、キャンペーンとキャンペーンの間隔は2〜3カ月程度しかありません。新しいサービスを検討する間もなく、次のキャンペーンが始まってしまう。それが今までの常でしたから。
─クラウドの有効性は分かっていたが、きちんと議論するだけの時間的余裕がなかった?
阿部:そういうことです。
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