ここ1、2年でクラウドに関する、ベンダー/ユーザー双方でのノウハウの蓄積が確実に進んでいます。その結果、いよいよスケールメリットがはたらき始め、利用側のメリットがより大きなものになってきていると言えます。
パブリッククラウド・サービスを提供するベンダーにとって、いわゆる「規模の経済」がもたらすメリット(スケールメリット)の追求は、サービスを継続的に提供していくうえでの前提となっています。その実現に不可欠なマルチテナント型アーキテクチャ(マルチテナンシー)は、SaaSの登場初期に従来のASPモデルとの最大の違いとして頻繁に説明されたため、広く知られていることと思います。
マルチテナンシーはSaaS、IaaS、PaaSなどパブリッククラウドの全レイヤに採用されています。例えばSaaSの場合、ベンダーはアプリケーションが共通のデータベースやアプリケーションのビジネスロジックなどを共有する仕組みの提供基盤を構築し、個々のユーザーにはその仕組みを意識させずにサービスを提供する、というのがマルチテナンシーの典型的な形態になります。
ベンダーは、ユーザー数が増えるのにしたがって、サーバーやストレージの増強などの投資を行う必要がありますが、マルチテナンシーの仕組みによって、全体では1テナント当たりの構築・運用コストが低減していくことになり、それがユーザーにとってのメリットにつながっていきます。現在、市場で成功を収めているパブリッククラウドに見られる利用料金の値下げや、料金を維持しての機能・サービスレベル向上などがそれにあたります。
また、ベンダーは、パブリッククラウドで追求されるスケールメリットがユーザーにもたらすものとして、上記に加えて、セキュリティ面でのメリットも挙げて強調しています。元ヘロクのCEOで現在は同社の買収先であるセールスフォース・ドットコムでプラットフォーム・シニアバイスプレジデントを務めるバイロン・セバスティアン氏は次のように説明しています。「セキュリティにおいても、クラウドにおける規模の経済がはたらくことになる。大規模な環境での厳しい要件を満たす最高レベルのセキュリティがベストプラクティスとなり、(マルチテナンシーによって)すべてのユーザーの環境に適用される」
国内の企業を対象とした調査リポートを読むに、企業がパブリッククラウドの採用に二の足を踏む理由として、セキュリティ面での不安が依然として多く挙げられています。パブリッククラウド・ベンダーは米国をはじめ海外勢がシェアの大半を占めているため、日本企業の場合、その採用の大半は、海外のデータセンターにデータやシステムを委ねることを意味します。そのことが要件にひっかかったり、あるいは心理的な障壁からセキュリティを懸念する向きが多いのだと推測されます。
技術的な進展に加えて、ここ1、2年でクラウドを積極的に採用する企業がぐんと増えたことで、ベンダー/ユーザー双方でのノウハウの蓄積は確実に進んでいます。つまり、数年前とは違って、クラウドの企業利用に関して全体的にスケールメリットがはたらき始め、利用側のメリットがより大きなものになってきていると言えます。経営陣にパブリッククラウドの採用を納得させることができずに困っているという方は、スケールメリットの観点からも、検討中のパブリッククラウドが、自社で求めるセキュリティなどの要件を満たすものだということを示してみてはいかがでしょうか。
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