国産のスーパーコンピュータが処理性能において世界一に、という嬉しいニュースが飛び込んできた。理化学研究所と富士通が共同で開発中の「京」がそれで、最終的には10ペタFLOPSという高速処理を目指しているという。開発陣の威信にかけた最高レベルの戦いに今後とも目が離せない。
6月20日、ドイツ・ハンブルクで開催された第26回国際スーパーコンピューティング会議(International Supercomputing Conference:ISC'11)において発表されたスーパーコンピュータの世界ランキング「TOP500 List」の最新版で、理化学研究所と富士通が共同で開発中のスパコン「京(けい)」が1位となりました。日本のスパコンが同リストの頂点に立つのは、2002年6月から2004年6月にかけて1位を維持した海洋研究開発機構とNECによる「地球シミュレータ」以来のことで、この分野で日本が久し振りに存在感を世界に示すこととなりました。
今回、京が達成したLINPACKベンチマークの結果は8.162ペタFLOPS(FLOPSは1秒あたりの浮動小数点数演算回数)で、2位の中国「天河1A号」の2.566ペタFLOPS、3位の米国「Jaguar」の1.759ペタFLOPS)を大きく上回る結果となりました。この圧倒的な数値は、高速ノード間通信技術「Tofu Interconnection」で結ばれる672筐体に収められたSPARC64 VIIIfxプロセッサ68544個(8コア動作なので総コア数は548352!)によってたたき出されたものです。
その名前の由来どおり、京が最終的に目指しているのは京速=10ペタFLOPSで、2012年6月の完成後に京速の実現が予定されています。ただし現在、米国と中国を中心に世界のスパコン開発競争が激しさを増しており、完成して10ペタFLOPSを実現したとしても、その頃に京は世界1位の座を失うという予想がされています。特に、文字どおり国家の威信をかけて巨額をつぎ込みこの分野に取り組む米国では、ローレンス・リバモア国立研究所に納品予定の「IBM Sequoia」や、国立スーパーコンピュータ応用研究所(NCSA)、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校、IBMによる「Blue Waters」、オークリッジ国立研究所(ORNL)とクレイによる「Titan」といったプロジェクトが、2012年に20ペタFLOPSの達成を目指して開発が進められています。また、わが国でも、東京工業大学の「TSUBAME」プロジェクトが、2014~2015年にTSUBAME 3.0を投入してピーク時30ペタFLOPSを達成することを目標に掲げています。
さて、TOP500 Listの更新のたびに報じられるHPC/スパコン競争を、私は4輪モータースポーツの最高峰F1と比較して考えるくせがあります。スパコンのような国家プロジェクトの規模には及ばないものの、F1では世界的な自動車メーカーがサーキットを“走る実験室”ととらえ、巨額を投じて熾烈な開発競争を繰り広げています。
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