2008年末のリーマンショック以降、米国の失業者数は増加の一途をたどっている。ところが、シリコンバレーでは今、人手不足が深刻な問題になっている。求められているのは、モバイルやソーシャルメディア、クラウドといった最先端のITに通じた技術者である。
移民で成り立って来た米国には、「国内で不足している人的資源は外から補充する」という通念がある。古くは綿花や小麦の栽培・収穫、鉄道建設を移民の労働力が支えた。明治時代には、日本からも多数の農業移民が米国に渡った。そして今日、米国が海外に求める人材は、優秀なIT技術者である。
外国人が米国内で就業するには、移民局に申請して労働ビザの給付を受ける必要がある。IT技術者のように高度な専門スキルを持ち、就職先が決まっている人に給付される労働ビザを「H-1Bビザ」と呼ぶ。H-1Bビザの給付枠はもともと、年間6万5000人だった。ところが1990年代末からのネットバブル時代、この枠は19万5000人へと大幅に拡大され、ビザ取得者の多くはシリコンバレーのハイテク企業に就職した。
その後、2000年代初頭のバブル崩壊による景気後退を受け、ビザ給付枠は6万5千人に戻された。しかし、2005年ごろにWeb 2.0やソーシャルメディアといった新しい技術が登場し、それらを駆使できる技術者への需要が再び高まった。そこで移民局は、米国で修士号を取得した外国人を対象に、H-1Bビザの給付数を2万人分追加し、8万5000人とした。
なお、H-1Bビザの給付対象はIT技術者に限られているわけではない。しかし実際には、取得者の雇用先はIT関連企業がほとんど。2009年、同ビザの取得者数が多かった上位10社を表に示す。Wiproをはじめインド企業4社が名を連ねていることにも注目したい。例年、H-1Bビザ取得者の約半数はインド人である。
人材確保にソーシャルメディア駆使
こうして海外から毎年数万人の技術者を受け入れている一方で、その争奪戦は激しさを増しつつある。インターネット上の求人サイトに寄せられるIT技術者へのオファーは急増。シリコンバレー地区では、特にモバイルやソーシャルメディア、クラウドコンピューティングに強い人材が求められている(画面)。
もちろん、企業の採用担当者は求人募集への応募者を座して待っているだけではない。あの手この手を使い、人材発掘とその確保に奔走している。例えば、技術者が集まる会合に出向いてふさわしい人物を探す。参加者に「いい人がいたら紹介してほしい」と声を掛けることも忘れない。
ソーシャル時代ならではの採用活動も活発である。例えば、スマートフォン向けアプリケーション・ストアを覗き、人気の高いアプリを開発した学生を見出す。ブログでプログラミングの腕前を自慢している若者に目を付ける。「これぞ」という人材を発見したら即、TwitterやFacebook経由で連絡する。他社に先んじて優秀な人材を獲得するのは、時間との勝負でもある。
採用担当者が、他社で働く技術者の引き抜きに役立てるのは、LinkedInだ。同サービスは、職歴に加えてその人がどういう人脈を持っているかを一覧できるため、人物評価の重要な指標となっている。
このように、シリコンバレーの技術者は引く手あまた。当然、待遇もよい。給与平均は全米平均より20%も高く、2009年から2010年にかけての昇給率の平均は3%だった(出典:2011 Silicon Valley Index)。まさに“売り手市場”である。
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