[ザ・プロジェクト]
潜在顧客の発掘を目指しBI基盤を刷新、専門家不在でも高度な分析を可能に─「プロアクティブ」化粧品のガシー・レンカー
2011年11月16日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)
日々、熾烈な競争を展開する通販業界。顧客の購買履歴の分析や効果的な活用は、極めて優先度の高いテーマだ。化粧品ブランド「プロアクティブ」で知られるガシー・レンカー・ジャパン(現 ザ・プロアクティブカンパニー)は、そのために最近、データ分析基盤を刷新した。プロジェクトを指揮した董シニアマネージャーに、その経緯を聞く。 聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:難波 毅
- 董 丞培氏
- ガシー・レンカー・ジャパン カスタマーオペレーションズ&システム シニアマネージャー
- 20年以上にわたり日本における外資系企業をベースに活躍。2008年にガシー・レンカー・ジャパンのシステム担当シニアマネージャーに就任。その後カスタマー・オペレーションズを兼任し、ビジネス拡大のためシステム最適化および業務の改善に努める
─ いきなりで恐縮ですが、ガシー・レンカーという社名にはあまり馴染みがありません。
董: 確かに、社名ではなく「プロアクティブ」のメーカーといったほうが分かりやすいかもしませんね。
─ それなら私も知っています。ニキビケア製品ですね。店頭や訪問での対面販売もしているんですか。
董: 基本的には、通販のみです。対面販売だと、流通コストがかさむ割に、正しい使い方や本当の効能が伝わりにくい。そんな考えから、インフォマーシャルで詳細な商品情報を伝え、Webや電話で受注する販売体制を貫いています。
─ インフォマーシャルって、いわゆる通販番組と考えていい?
董: そうです。実は、インフォマーシャルのコンセプトを初めて打ち出したのは、米国本社を1988年に創業したビル・ガシーとグレック・レンカーなんですよ。
過去5年のデータが全体の9割
急成長でシステムが限界に
─ では本題に入ります。今回、Sybase IQを用いてデータ分析基盤を構築したそうですね。データウェアハウス(DWH)の導入は初めてですか。
董: いいえ。6年前にレッドブリックを導入。オンラインシステム上の受注や在庫、配送データを日次で取り込み、営業やマーケティング業務における分析作業に活用していました。
─ それを刷新した理由は?
董: 端的に言えば、導入時に比べてビジネス規模が拡大し、スペック的にもの足りなくなってきたからです。当社は設立から10年あまりですが、現在保有するデータのうち約9割は、過去5年に入ってきたものなんですよ。
─ 旧システムを導入した後に、ビジネスが急激に成長した。
董: はい。正直、想像以上でした。それで2年ほど前から、旧システムに限界が見えてきた。データ量の増加に伴い、毎日のローディング時間が徐々に増えました。加えて、データ抽出にも時間がかかるようになったため、営業やマーケティングといった現場での分析業務にも影響が出始めていた。
─ どんな影響?
董: 例えば、一部の社員に作業負荷が集中していました。従来のシステムでは、条件設定を失敗して思うような結果が出ないと、また長時間かけて分析し直さなければなりませんでした。それを嫌って、レッドブリックの操作に慣れた同僚に分析を依頼する社員が少なくなかった。できるだけ一発でほしい結果を得たいがためです。
─ なるほど。でも、ハードを増強すれば、データ量の増大にはある程度対応できるのでは。
董: 話はそう単純ではないんです。分析の質を向上させたいというニーズもあった。
─ その辺をもう少し詳しく。
董: 肌トラブルに悩む人は日本に数千万人というオーダーでいるはず。ここ5年で急成長したとはいえ、潜在顧客はまだまだ多いと見ています。そうした顧客にタイミングよく働きかけ、一方で既存顧客への売り上げを拡大したい。それには、蓄積したデータから消費者動向を探り、新しい売り方を模索する、CRM的なアプローチで既存顧客との関係を強化する、といった手立てを考えていかなければなりません。
─ さらなる成長のために、マーケティングや営業活動へのデータ活用をより進める必要があった。
董: はい。ところが、従来のシステムは非常にシンプルなものでした。オンラインシステムのデータをそのまま持ってきて置いてあった。
─ 単純な販売集計に使っていたという理解でいいですか。
董: ええ。分析用に特定のデータを集計したデータマートを構築するといったDWH“らしい”使い方はしていませんでした。DB内のインデックス数も増えるに任せていた。そのまま放置しては、いずれ「データ件数よりインデックス数のほうが多い」という逆転現象が起こりかねない状況でした。
─ なぜ、そんな状況に陥ったんです?
董: 社内にDWHに詳しい担当者がいないというのが最大の理由です。それはそれで、一定の効果はありましたし。しかし先ほど申し上げたように、今後はより高度な分析を実現したい。そのためには専門知識を持つ要員を配置するという手もあるでしょうが、果たしてそこまでしてレッドブリックを使い続けることに意義があるのか。ほかにもっとよい方法があるのではないか。今回の刷新の根底には、そういう問題意識があったんですよ。
4社の製品を比較検討
不明瞭な値引きには不信感
─ プロジェクトの背景を聞きました。それで実際に動き出したのは?
董: 2009年夏ごろ、調査に取りかかりました。
─ 具体的に、何をしたんですか。
董: まずは、どんな製品があるかを調べました。そこからある程度ふるいにかけて、サイベースを含む4社にRFIを出した。当社の現状を説明して、BIのソリューションについて情報を求めたんですよ。
─ サイベース以外の3社を教えてください。
董: レッドブリックの現在の開発元であるIBM、それからアプライアンスベンダーです。
─ アプライアンスベンダーというと、テラデータやオラクル?
董: いいえ、違います。テラデータは、性能面で確かに優れています。しかしその分、価格も高い。オラクルのExadataは、当社には大規模すぎる。というわけで、2つとも対象外でした。
─ それ以外となると、どこだろう…。
董: すみません、これ以上は控えさせてください(笑)。
─ 分かりました。さて、4社を俎上に並べた。それで?
董: ある程度情報が集まったところでRFPを出して、各社に改めて提案を依頼しました。
─ その際の主要な要件は?
董: 大きくはデータローディングと抽出のスピード、それにコスト。あともう1つ、メンテナンスが容易であることも要件でした。専門家がいないと運用できないような仕組みでは困りますから。
─ 性能、コスト、メンテナンス性の3つを重視した。ただ、ソフトウェア製品とアプライアンスを同じ枠組みで比較するとなると大変だったのでは。
董: いや、それほど難しくなかったですよ。さっき挙げた3つの要件をブレークダウンし、数十項目からなる評価表を作成。点数が高かった提案を選択したという流れです。
─ IQがずば抜けて高得点だった?
董: そうではありませんが、総合的評価でトップでした。すべての項目でトップだったわけではないものの、決定的に悪いところはなかったんです。ほかは、「どうしてもここが気になる」という不安要素があって。
─ バランスがよかったということですね。
董: はい。それに、「このスペックならいくらです」と見積額を最初に明示し、最後までぶれなかった点も大きい。ほかのベンダーは、やりとりをしながら金額を足したり削ったり。
─ ベンダーにそれをされると、ユーザーは「本当はいくらなんだ?」と不信感を抱きますよね。
董: その通りです。
─ 最終的にサイベースに決めたのは?
董: 2010年夏にほぼ決めました。
─ ということは、検討開始から1年後。結構、時間をかけたんですね。
董: 実は理由があるんです。そのころ、米国本社もBI導入に動いていて、その方向性を見極める必要がありました。単一の製品をグローバル導入する可能性もあった。結局、データ分析基盤についてはこれまで通り、各拠点ごとに導入・運用する体制を継続することになりましたが。
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