[金谷敏尊の「ITアナリストの仕事術」]

仕事術No.5「美的センスとビジネススキル」

2013年2月19日(火)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)

人が「美」を感じるその対象物とは、何も大自然の風景や洗練された音楽だけではない。視野を広げれば、日常の会話のなかにも、学術的理論のなかにも、ソフトウェアのソースコードのなかにも、美しさを感じ取ることができるはずである。

仕事の現場では、アートやデザインに関わる職業を除くと、美的センスが問われるような機会はあまりない。例えば、企画書や報告書をつくる時、その中身は十分に精査しても、背景デザインやロゴマークの位置について注意を払うことは少ないだろう。だが、美しいものに触れて感動したいというのは、人間の本能である。せっかく仕事をするのであれば、そこに何らかの美を見出したいものである。

美しさとは、見栄えが良くて綺麗であることだけを必ずしも意味しない。非常に洗練された考え方やプロセスに出会った時、そこに一切の無駄がなく完璧であるさまを見て感動することがある。複雑な物事の本質を的確にとらえて、簡潔に表現されたフレーズを聞いて、爽快感を覚えることがある。これらも一種の美しさに対する反応といえるのではないだろうか。

洗練されていることの美学

「洗練されて無駄がないもの」には美しさが備わっている。音楽を例にとろう。バイオリンやギターがある程度弾けるようになった人は、つい必要以上にたくさんの音を弾いてしまう傾向がある。しかし、円熟したプレーヤは、余分なサウンドを削ぎ落として、必要最小限の音で自己表現を試みる。エリック・クラプトンは誰もが認めるギターヒーローだが、決して速弾きのテクニックに優れているわけではない。むしろ彼は「スローハンド」との愛称を付けられるほど、ゆったりとした旋律を得意とする。彼のプレイには、無駄な音やフレーズがなく、情緒に満ちていている。だから、リスナーの心に直接響いてくる。

ビートルズを解散した後、ジョン・レノンがソロ活動で取り組んだのは、より少ない単語で作詞を行うことだった。本当に必要な言葉だけを残して、本質的なメッセージをむき出しにすることで、伝わり易くするよう心掛けた。その結果生まれたのが、イマジン、ウーマン、ラブなどの名曲なのだという。

私たち日本人は、こうした無駄をなくす所作を芸術の域にまで高めている。限られた字数で表現される俳句や百人一首がそうだ。同じ内容をたくさんの言葉を使った散文でを書いたとしても、歌人の情緒は伝わるかもしれない。しかし、そこに洗練の美は見いだせない。

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仕事術No.5「美的センスとビジネススキル」人が「美」を感じるその対象物とは、何も大自然の風景や洗練された音楽だけではない。視野を広げれば、日常の会話のなかにも、学術的理論のなかにも、ソフトウェアのソースコードのなかにも、美しさを感じ取ることができるはずである。

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