読者は、総務省が主導する「政府情報システムの棚卸し」プロジェクトをご存じだろうか。これは、政府の情報システムが扱う情報資産等を可視化し実態を把握した上で、それを情報基盤として活用していこうとする取り組みだ。これを契機に全システムの運用保守等にかかる莫大なコストを圧縮し、電子政府を戦略的に整備・運用していこうとする、他国でもほとんど例のない試みだ。2013年7月25日、東京都内で開催された日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)の定例セミナーでは、総務省 行政管理局で副管理官を務める大平利幸氏が特別講演スピーカーとして登壇。同プロジェクトのねらいと進捗、今後の計画などについて語った。
各府省でサイロ型のシステム構築が進み、膨れ上がった政府情報システム全体の実態把握が困難に
年間約5,000億円――この数字は、政府における全情報システムの整備・運用・保守のために1年間で投じられる経費の総額だ。政府のIT戦略を司る重要なシステム群とはいえ、巨額に過ぎるというのが、部外者の持つ率直な感想だ。もちろん、政府自身もITコストの肥大化を認識・問題視しており、業務の効率化やサービス価値向上、セキュリティの強化などと併せて、ITコストの大幅な削減を重要課題に掲げ、解決に向けてさまざまな取り組みがなされてきた。
だが、それらの課題は定性的な目標であり、どこまでやれば達成なのかは曖昧なまま歳月が経過して今に至っているのが実情で、背景には、政府情報システムの成り立ち方の問題がある。「各府省の管轄に置かれる情報システムはどれも個別バラバラにサイロ型で構築されてきました。当然、そこには統一的な技術標準もなければ、データ標準もありません。そのような状態で長年、抜本的な課題解決が行えずにいました」(大平氏)
2012年4月、そんな状況に転機が訪れる。政府情報システム刷新有識者会議の立ち上げである。政府情報システムを刷新し、コストを圧縮すべく同会議では政府情報システム全体のうち、何に、いくらかかっているのかが予算ベースでしか把握できていない点を問題視。「つまり、この部分にこの額の予算がついていることはわかっていても、それが実際にシステムにどう反映されているかの詳細が見えてこないというわけです。各省庁にはそれぞれの情報資産の管理をお願いしていましたが、先に申したように情報資産管理に関する統一的なルールがないので、その取扱いがまちまちな状態で、全体像の把握はまず不可能でした」(大平氏)
基本方針/コンセプトを策定する棚卸しプロジェクトが始動
そこで検討されたのが、政府情報システムの棚卸しというアプローチだ。各府省が整備・管理を行う全情報システムを対象に情報資産等の棚卸しを行い、どこにどのような情報システムがあり、それはどのような資産を持っていて、現在の状況はどうなっているのかや、情報システムのライフサイクルはどうなっているのかなど現在の情報システムの全体像を可視化。そこで判明した無駄や非効率を排除することで莫大にかかっていたコストを圧縮し、電子政府推進に資する情報基盤を確立していく――このような基本方針が、政府情報システム刷新有識者会議において描かれた。
続いて同会議は、基本方針に沿って、次の2点を追求していくという基本コンセプトを掲げた。1つは、ITガバナンスの下でIT資産情報とIT整備・運用が正確に紐付けられた、統一的かつ戦略的な資産管理スキームの確立である。もう1つは、平成22年(2010年)度時点で運用経費等が約8割、整備経費が約2割を占めるITコストについて、棚卸しによって可視化された資産情報等を元に無駄を削減し、サービス価値向上をはじめとする戦略的投資へと振り向けるというコスト構造改革だ。
「我々自身がもっと先に進むためには、絶対にデータが欠かせないとの考えに至りました。政府情報システムと、そこで扱うあらゆるデータを取得し、モニタリングしていく必要がある。その最初のステップとして棚卸しプロジェクトが始動したのです」(大平氏)
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●Next:政府情報システム棚卸しプロジェクトの進捗
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