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[ITトラブルの防止と対策]

ベンダーによるオーバーコミット(過剰な提案)と 発注者の“相手任せの姿勢”が訴訟を招く

2014年1月15日(水)早川 淳一 菅沼 聖也

訴訟に至るようなITトラブルを防止するためには何を行うべきか。今回は、受注者側のオーバーコミットにより、機能が実現しなかったために訴訟になった事例を取り上げ、発注者によるベンダー提案の実現性の吟味の重要性をお伝えしたい。

提案段階では、「機会主義的行動」な考えが営業担当者の頭を占める
提案段階では、受注側がどうしても提案を広げ過ぎてしまう

 今回の事例は、財務分析システムの改良を行うシステム開発において、プロジェクトが遅延を重ね、開発を請負った業者が目的の機能を実現できずに、発注者が契約を解除。支払った代金の返還等を求めて訴訟し、それが認容されたものである。(東京地判平19・12・4)

 プロジェクトの経緯は以下の通りだ。

 発注者は、企業や個人事業者に対して、経営、会計、事業承継、税務などに関する総合的なアドバイスやコンサルテーションを提供する会計事務所である。同事務所は、インターネット上で企業の財務状況の分析を行うシステムを保持していた。システムのユーザーは、発注者の会計事務所グループに所属する会員会計事務所をはじめとする約60の会計事務所と、約40のクライアント企業である。

 例えば、会員である会計事務所のクライアント企業が過去の財務諸表データを入力すると、安全性や収益性の視点から格付け評価を行ったり、財務上の改善点を表示したりする機能を有していた。会員である会計事務所がクライアントに対してワンポイントアドバイス行える機能も備えていた。もちろん発注者自身のクライアント企業にもこのシステムをサービスとして提供していた。

 しかし、システムの利用者が思うように増えず、使い勝手の点などいくつかの改善すべき点が見つかってきていたため、発注者はこれらの問題点を解決するために当システムを機能改良することにした。発注者は、取引のある会社から今回の受注者を紹介され、受注者の代表者と面談。システムの問題点や改善の要望を説明し、正式にシステムの再開発業務の制作費の見積もりやスケジュール検討を依頼した。

 その後、受注者は提案のプレゼンテーションを行った。「今のままであれば自分は使おうと思わない」などの辛辣な批評をし、「システムの真の顧客は会計事務所の先にある企業経営者であり、経営者に向けたストレートなサービスの展開を主眼とすべき」といった趣旨の提案をした。

 受注者は問題点として、企業が財務諸表を開示公表する動機付けが弱い点を指摘。これを改善するために、新規顧客や新規仕入先を獲得し、資金調達を可能にし、新規事業での提携先の発掘を可能にするサービスをシステムに持たせることを提案した。

 具体的には、クライアント企業の得意分野などのプロフィールを自由に登録・検索できるシステムの構築、仕事の募集・依頼の自由な登録・検索を可能にするシステムの構築などを提案した。

 発注者は、こうした受注者の提案に感銘を受けた。受注者の代表者はマーケティングに明るく、受注者の担当者には金融関係のシステム開発に携わった経験者がいることもあり、責任者やその担当者がシステム開発に関与するのであれば、よいシステムが開発されるものと考えたこともある。

 費用(約2000万円)、スケジュール(約1年)について確認した上で、請負契約を締結した。

 しかし、プロジェクトは当初から迷走を始める。最初の2ヶ月で受注者から提出された要件定義書案に、開発目的であった新機能が盛り込まれていなかった。この事実に対し発注者からコメントを付して回答しても、これに対する受注者からの応答はなく、その後受注者からの連絡が途切れがちになった。

 ようやく受注者代表者と打ち合わせの場を持ったとき、受注者は「責任者が病気のため業務から離脱した」ことを説明し、「今後は別の担当者が開発担当責任者となり、当初の予定とそれほど違わないように進行するよう努力する」ことを約束した。

 しかし、その後も機能面についての進展がなく、受注者からは開発目的となっていた機能の提案がなかった。その後、2回のスケジュール変更を経て、受注者の提示したスケジュールの妥当性を検証するため、現状での成果物の提出を受注者に依頼した。するとCDが送付されてきたが、中身を確認できる形式ではなく、説明書の添付もない、およそ解読できるものではなかった。

 その後、プログラムがインストールされたサーバーも送られてきた。これを第三者によって検証した結果、システムは起動せず、未完成との判断がなされた。発注者は受注者には当請負契約の仕事を完成させる能力がないとして、解除の意思表示をし、提訴に至っている。

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