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インフラの進化が引き起こしたビッグデータの真意:第4回

2014年2月17日(月)大和 敏彦

ビッグデータの活用に取り組む企業が増えている。ただ、そこでいうビッグデータは、大量データとその分析といったイメージが強い。しかし、ビッグデータの真意は、データをより活用して新しい価値や仕組みを生み出そうとする時代が到来したことにある。様々なICTインフラの進化が引き起こした波が、ビッグデータ時代なのだ。この真意を見誤ってはならない。

 インターネットの出現で誕生したのが「繋げる機能」である。Webとブラウザによって世界標準の情報共有の仕組みが生まれたのだ。その進化により、Web時代のアプリケーションやサービス、ビジネスが生まれた。

 次にインターネット人口が増加したことで、インターネットはコミュニケーションの仕組みへと進化した。そして生まれたのが、SNS(Social Networking Service:ソーシャル・ネットワーキング・サービス)時代のアプリケーションやサービス、ビジネスである。

 そして、インターネットとコンピューティングが結び付いたクラウドが生まれる。モバイル時代のアプリケーションやサービス、ビジネスを生むと同時に、端末の変革も生み出した。様々な企業がクラウドサービスを提供するようになってきた。今後も、この動きは広がるであろう。これらの流れが、ビッグデータ時代へとつながっていく(図1)。

図1:インフラの進化が生んだビッグデータ時代

 ビッグデータを狭義にとらえれば、大量に蓄えたデータから、新しい法則やルールや情報を発見してビジネスにつなげる時代にみえる。しかし、本質的には、これまで扱いや収集が難しかったデータを集め、集積したデータの使い方から生み出される新しいイノベーションの流れこそがビッグデータの時代なのだ。Web時代、SNS時代、モバイル時代が引き起こしてきたような大きな変革が生まれようとしている。

 その一例が「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」であろう。今までネットにつながっていなかったモノがネットに接続され、そこから環境や行動などをデータとして収集し、吸い上げたデータやデータの分析結果を次の判断に使うことで新しいビジネスモデルを創出する。データ処理量の増大という課題はクラウドによって解決できる。米国では、ここ数年でビッグデータ分野のベンチャー企業が1000社以上生まれ、活発に活動している理由が、ここにある。

コモディティな分野でも新サービスが次々と誕生する

 第3回では、クラウドサービスプロバイダー(CSP:Cloud Service Provider)が利用するテクノロジーを中心に紹介した。

 簡単にまとめれば、CSPが利用するデータセンター内では、より集積度を高めたサーバーやストレージの使用と実装の工夫が進み、仮想マシン(VM:Virtual Machine)当りの省電力化、省スペース化が実現されていく。空調機器などの電力削減に加え、発電と組み合わせたエネルギー対策などデータセンター全体で最適化を図った仕組みが広がっていくであろう(図2)。

図2:クラウドの進展方向

 規模に関しては大規模化が望ましい。ただ、CSPそれぞれのビジネスの広がりとエネルギー供給の折り合いで、実際の大きさは決まっていくであろう。そのうえで各データセンターは、高速ネットワークで結ばれ、大規模な仮想化データセンターを形成する。

 しかし、巨大化したクラウドだけがシェアを広げる訳ではない。様々な差別化のアイデアをもったサービスも生まれてくる。例えばIaaS(Infrastructure as a Service)市場は、米調査会社のガートナーの予想では、年率40%の成長を遂げるとされるが、コモディティ化の進展が早い分野でもある。そうした環境にあっても、差別化したサービスを武器に急成長を遂げているCSPが生まれてくるのである。

 米DigitalOceanが、その1社である。SSDモデルのサーバーを使い、「シンプル・クラウド・ホスティング」をキーワードにしたサービスを提供する。下位の仮想サーバーは月額5ドルで、申し込みから55秒で使い始められる。このサービスによって、2013年のユーザー数は、年初の1000ユーザーから年末に14万ユーザーにまで急成長した。開発者を中心に広く使われている。

 DigitalOceanの他にも、IaaS構築用ソフトであるOpenStack推進の中心である米Rackspaceや、クラウドサービスの巻き返しに力を注いでいる米IBMなどが、サービス、仮想化、規模、コストの差別化を武器に激しい競争を繰り広げている。利用企業の選択肢は、ますます広がるであろう。

 さらに、これらIaaSの上に、開発環境やアプリケーション・プラットフォームになるPaaS(Platform as a Service)が提供されている。アプリケーション開発を迅速化するフレームワークを使うことで、開発の内容もスタイルも大きく変わっていく。アプリケーションが自身の動作環境として求める自動スケーリングや、フェールオーバー、ロードバランシング、セキュリティといった機能が、仮想環境として即座に提供されるようになるからだ。

 クラウドによる仮想環境の実現によって、稼働環境を考えてからアプリケーションを開発する時代は終わり、利用企業は、アプリケーションをこれまで以上に容易に開発できるようになる。

 さらに、より上位のビジネスイノベーション、すなわち新しい事業や、アプリケーションを創り出すことを加速するためのプラットフォームへとクラウドは進化していく。米Amazonや米Pivotalといった企業が既に、ビッグデータ向けプラットフォームを発表している。OpenStack同様に、ビッグデータに向けたプラットフォームをOSS(Open Source Software:オープンソース・ソフトウェア)で開発する動きもある。

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