開発案件の必要性や妥当性を経営陣に説得する、社外のセミナー講師に招かれてプロジェクトの要諦を紹介する…。ITリーダーなら、自らプレゼンテーションする機会も少なくないはずだ。そんな方々に向けて、“プレゼンの心得”を説く本連載。各論に入る前に、まずはプレゼンテーションの本質的意味合いについて、今一度整理しておこう。
プレゼンテーションは「個人力」
アサヒスーパードライの広告を手がけてきたことで知られる博報堂の小沢正光氏がこう言っている──「クリエイティブ・ディレクターの最大の仕事はプレゼンである」。(※注1)
練りに練った、すべてを注ぎ込んだアイデアも、“競合プレゼン”に負けては水の泡だ。製品にしろ、サービスにしろ、システムにしろ、コストや関わった人たちの汗とパワーが注がれている。それらを背負って、相手に説明や提案をし、心を動かそうとする。たった1人の個人がである。その力が重要であることは間違いない。
「心を動かす」「感動させる」…。映画や演劇などにおいても可能なことだが、これらをプレゼンテーションとは呼ばない。プレゼンテーションとは、あくまで生身の人間の語りであり、“個人力”である。
しかしながら、その“個人力”に対する、取り組みはなされているのだろうか。「学ぶべきだと思っているんですが…」という声はよく耳にする。企業にしても、「交渉力」「調整力」「表現力」などが人事評価の項目に入っているケースも珍しくはない。ただし、それらのスキル要件を明確にして、体系立てて教えているかというと、はなはだ疑問である。仮に、営業部員が“ダメなプレゼン”をしたとしても、給与が下がることはまずないだろう(結果として重要案件の受注を逃せば分からないが…)。
結果はプロセスがもたらす。結果を直接コントロールすることはできないが、プロセスや手段はコントロールできる。そう、プレゼンテーションは手段である。このことを、あらためて念頭に置いておきたい。
本連載では、“代表的なプレゼンテーション”を題材にして、「プレゼンテーション 21のポイント」を回を追って説明していく。この技術は、多くの聴き手の心を動かし“シンパ”にすることを目指すものだ。そこには「コミュニケーション技術の本質」がちりばめられており、他の手段にも共有・応用できる。日常のコミュニケーションにも、必ず役立つものと信じている。
ネット時代と言われて久しく、ネット上でのコミュニケーションももちろん重要だ。しかし、「人と人との生身のコミュニケーション」は、人間として社会生活を営む上での基本であり、ビジネスにおいても避けて通ることはできない。この力をあらためて見つめ直すべきだと考えている。「プレゼンテーション力」は「コミュニケーション力」の重要な部分である。ゆくゆくリーダーとなる若い方々にも早くから身に付けてほしいと心から願っている。
【参考文献】
- 注1:「ひとつ上のプレゼン。」(眞木準 編、インプレスジャパン)
オレンジコミュニケーション・サポート
代表
永井 一美 氏
日本システムウエア(NSW)入社以来、一貫してITに従事。入社当時、日の丸コンピュータとして電電公社、富士通、日本電気、日立製作所の共同開発である「DIPSプロジェクト」に携わる。その後、システムインテグレーション部隊のマネージャーなどを歴任。
「ソフトウェアの可能性」を追求すべく、“2000年問題”収束後の2000年6月にアクシスソフトウェア(アクシスソフトへの社名変更後、現在は合併によりオープンストリーム)に転職、製品事業の立ち上げに尽力し、2006年に代表取締役社長に就任。MIJS(Made In Japan Software Consortium)理事、日本IT特許組合の理事長なども務める。2011年9月、アクシスソフト代表を退任。
現在は、オレンジコミュニケーション・サポートとしてプレゼンテーション、ヴォイス・トレーニング、タイピング研修を事業として活動している。「ビジネス経験の中で、プレゼンテーションは核だった」とは本人の弁。
オレンジコミュニケーション・サポート:http://www.orangecom-support.com
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