開発案件の必要性や妥当性を経営陣に説得する、社外のセミナー講師に招かれてプロジェクトの要諦を紹介する…。ITリーダーなら、自らプレゼンテーションする機会も少なくないはずだ。そんな方々に向けて、“プレゼンの心得”を説く本連載。各論に入る前に、まずはプレゼンテーションの本質的意味合いについて、今一度整理しておこう。
「プレゼンテーション」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。「企業が見込み客を一堂に招き、演壇で行う“語り”」などは、その代表的なシーンかもしれない。“語り”の場の多くでは、プロジェクターを利用しスクリーンへの投影もされる。“語る”のは、マーケティング部門や営業部門のメンバー、事業責任者、そしてトップなど。これは、“代表的なプレゼンテーション”と言えるものだ。
図1 代表的なプレゼンテーション
「自分はその立場ではないし、今後もそうした経験はしないだろう」と言う方がいるかもしれない。でも本当にあなたにとってプレゼンテーションは、無関係で必要のないものだろうか? ここであらためて「プレゼンテーションとは何か?」を考えてみよう。その定義をあれこれ議論するよりも、「何をプレゼンテーションと呼ぶか?」が重要で意味がある。それを共有し、話を進めていきたい。
1963年8月28日、人種差別撤廃を叫ぶデモ「ワシントン大行進」において、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(キング牧師)は、リンカーン記念館の前で「I have a dream」として、今も語り継がれる名演説を行った。貴重な映像がYouTubeにアップされているので、以下に紹介する。
図2 キング牧師の演説 出典:YouTube
「私には夢がある。いつの日かこのジョージアの赤土の丘の上でかつての奴隷の子孫達と奴隷主の子孫が同じテーブルに着くことを。私には夢がある。私の幼い4人の子供達がいつの日か肌の色ではなく、人格で評価される国に住めることを」(一部抜粋)
キング牧師の演説は、25万人の聴衆の心を打った。25万人の聴衆の心を動かした。25万人の聴衆を感動させた。これは、何によるものか。そう。聴衆の心を動かしたのは「言葉の力」にほかならない。この演説は多くの書籍で「素晴らしいプレゼンテーション」として引用されている。
日々、コミュニケーションの連続
私たちは社会の中で生活し、仕事をしている。人は1人では生きていけない存在だ。「すべての人」が「人と人とのコミュニケーション」を必要とし、その媒介として「言葉」を利用している。
会社では、上司や部下や仲間と、同じ目的に向かって仕事をしているはずだが、それでも意見の相違や衝突はある。逆にない方がおかしい。部署が違えばミッションが異なるため、ことさらである。こういった時に「相手に理解してもらう」「相手を説得する」必要が生じ、そのために言葉を用いる。“代表的なプレゼンテーション”や商談においても同様であり、聴衆や見込み客に理解してもらおう、説得しようと懸命に試みる。
コミュニケーションの相手は“心”を持つ人間
しかし、そう簡単に事は運ばない。「なぜ伝わらないのか?」「なぜ理解してもらえないのか?」といったことが往々にして起こり、悩むことになる。「どうしたらいいのか分からない」と落ち込むことさえある。──すべては、相手がいるからこそなのだ。相手は、自分とは独立した、立場も経験も違う“心を持つ人間”である。こちら側の“何らかの力”なくして相手の心は動かない。
ここであらためて…「プレゼンテーション」とは?
- 自らの意見やアイデア、コンセプトを聴き手に伝え、聴き手の心を動かす。聴き手に変化をもたらす。聴き手の行動を促す
一言で言えば、
- 「聴き手の心を動かす」もの
この意味においては、演説も商談も面談も会議での発言さえも、すべてプレゼンテーションと呼べるだろう。1、2mの距離で会話を主体とする場合/大勢の聴き手を前にする場合、個人の意見を述べる場合/組織を代表する場合…。それぞれ表現方法こそ違っていても、共通する目的は「聴き手の心を動かす」ことである。
図3 様々なプレゼンテーション
「プレゼンテーション力」は、「伝える力」であり「コミュニケーション力」であり「聴き手の心を動かすための総合力」なのだ。キング牧師は言葉の力により聴衆の心を動かした。言葉は、それを選ぶことができる語り手の特権である。そして「プレゼンテーション力」には、“言語”や“非言語コミュニケーション”を含めた技術が存在する。
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