[大元隆志のウェアラブル・ビジネス活用最前線]

ウェアラブルデバイスの使いどころと注意点、デジタル化が最良の手段とは限らない

第5回

2014年11月14日(金)大元 隆志

スマートグラスを活用して、現場のスタッフの視界を共有する。スタッフが着用したスマートウォッチに指示を出す。こういった取り組みは「遠隔協調作業」と呼ばれるもので、以前から国際学会でも扱われてきた。過去の研究や課題から学べることは多い。同テーマに詳しい、産業技術総合研究所 サービス工学研究センターの蔵田武志氏に話を聞いた。

蔵田氏写真:産業技術総合研究所 サービス工学研究センターの蔵田武志氏

――人と人とのコラボレーションを促進する手段として、ウェアラブルデバイスの可能性が注目されるようになってきました。例えば、現場で働くフィールドエンジニアを、熟練した技術者がオフィスから支援する。「遠隔協調作業」とも呼ばれる、こうした分野を以前から研究されてきたと伺いました。

 はい。1999から2006年にかけてウェアラブルデバイスの活用について研究していました。当時は、情報工学や人間工学の視点から、協調作業支援においてウェアラブルデバイスがどうのように活用可能かについても研究していました。

 研究成果の一環で、「遠隔協調作業における肩載せアクティブカメラ・レーザの利点と限界」という論文も執筆しました。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)や、WACL(Wearable Active Camera/Laser)が協調作業のサポートにどの程度役立つかをまとめたものです。

図:当時の実験の様子図:当時の実験の様子
拡大画像表示

デバイスの進歩によって、過去の課題解決に道筋がついた

――当時の研究や課題から、今日学ぶべき教訓はありますか?

 デバイスは大きく進化しました。10年ほど前は、デバイスが重く、運動性に欠けるほか、有線ケーブルで取り回しが難しく、データ通信にも課題があった。勿論バッテリーも課題でした。しかも、端末を一式揃えると数百万はしていました。率直に言って、当時のものは実用に耐えうるものではなかったと思います。

 例えば、グーグルグラスなどを見ていると、当時の課題だった点の殆どが解消されたと感じますね。小型化、軽量化が進み、通信能力も発達しました。ケーブルもなくなった。最も大きな違いは、製品が一般に市販されている点です。それらを組み合わせれば、当時研究機関が実験していたようなことが、民間企業、さらには一般の個人でも実験可能になった。

 ただ、だからといってこういう新しい装置を使って、新しいことが行われているかというとそうではありません。過去の研究の焼き直しのように感じる取り組みは多いですね。クラウドを併用して、実社会のデータを収集したり、システム上のデータを配信したりできるのは、大きな飛躍だと思います。ただ、それ以外は、あまり目新しいと思うものはありません。

――当時は、どんな引き合いがあったのでしょうか?

 例えば、原子力発電所の技術者不足対策などがそれですね。発電所は熟練した技術者でなければメンテナンスできません。一方で、技術者を育成するのには時間とコストが掛かります。もし、熟練した技術者が、現場の若い技術者を遠隔サポートできるようにすれば、技術者不足を解消できるのではないかという相談を持ち掛けられたことがあります。

 メンテナンス業務で、技術者の数を減らすためにデバイスを活用したいという問い合わせもありました。例えば、2人1組で実施しなければならない作業があるとします。遠隔協調作業システムを組み込めば、遠隔地にいる1人で複数人をサポートできる。人件費を削減できるのではないかと考えた企業からの問い合わせでした。

 ただ、当時は実装面、経済面に関して難しい部分が多かった。企業が興味を持っても、実用化には課題が山積していて、普及には至りませんでした。しかし、テクノロジーが進化し、コストが下がったことで、もう一度チャレンジしようという機運が高まってきたのでしょう。

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
バックナンバー
大元隆志のウェアラブル・ビジネス活用最前線一覧へ
関連キーワード

ウェアラブル / スマートグラス / スマートウォッチ / 産業技術総合研究所 / タブレット

関連記事

トピックス

[Sponsored]

ウェアラブルデバイスの使いどころと注意点、デジタル化が最良の手段とは限らないスマートグラスを活用して、現場のスタッフの視界を共有する。スタッフが着用したスマートウォッチに指示を出す。こういった取り組みは「遠隔協調作業」と呼ばれるもので、以前から国際学会でも扱われてきた。過去の研究や課題から学べることは多い。同テーマに詳しい、産業技術総合研究所 サービス工学研究センターの蔵田武志氏に話を聞いた。

PAGE TOP