「コーポレートVC(Venture Capital:ベンチャーキャピタル)」による投資が活発になってきた。優れた先進技術を独自に開発しているスタートアップ企業に資金を投じ、自社の製品/サービスに適用する。オープンイノベーションの波が背景にあるものの、キャピタルゲイン(Capital Gain:投資金利益)を得るという狙いも強い。
拡大画像表示
激化する市場競争にあって、企業が生き残るには、製品/サービスを絶え間なく革新していくことが不可欠である。そのために米国企業が取り組みを強化するのがオープンイノベーション、つまり外部の力を借りながら製品/サービスを開発することである。
本来なら、社内の人材にベンチャー精神を鼓吹してイノベーションを促進すればよいのだが、上手く機能しないのが実状だ。過去、社内ベンチャー制度も採り入れたが、生活が保障されている安定した生活の中からは、画期的なイノベーションは生れないことが実証されてきた。ガレージといわないまでも、質素な仕事環境で、新しいことに挑戦するハングリー精神がイノベーションを生む。
VC以上に高額を投資しているコーポレートVC
拡大画像表示
こうした背景から米国では近年、VC(Venture Capital)に混ざって、コーポレートVCによる投資が活発になっている(図1)。コーポレートVCとは、既存の事業会社が投資基金を確保し、スタートアップ企業へ直接投資することである。通常のVCがスタートアップ企業に投資するのを真似ている。
例えば、IntelのコーポレートVCであるIntel Capitalは、1991年に活動を始めた老舗である。これまでに1280のスタートアップ企業に計108億ドルを投資している。Googleは2009年からGoogle Venturesを始め、これまでに 160億ドルを投資した。主なコーポレートVCの2014年の投資件数を表1に挙げる。米国企業以外では、韓国のSamsung Ventures、ドイツのSiemens Venturesが著名だ。
拡大画像表示
2014年におけるVCおよびコーポレートVCによる投資総額と案件を示したのが表2である。1件当たりの投資額を計算してみると、平均してコーポレートVCの方が投資額は高額だ(表の最右欄)。
企業がコーポレートVCを運営する利点は、自社に欠けている製品・技術を開発するスタートアップ企業に投資することで、その製品・技術を優先的に手に入れ、シナジー効果が出せることである。投資したスタートアップ企業が成長しIPO(株の公開)を達成すれば、キャピタルゲイン(capital gain:投資金利益)も得られる。
投資を受けるスタートアップ企業にとってもメリットがある。著名なコーポレートVCから投資を受けられれば、他のベンチャー投資をさらに受けられる可能性が大きくなる。また、厳しい金融市場においてIPOまで漕ぎつけるのは容易ではないが、コーポレートVCと緊密な関係を保っておけば、その親会社が買収するという機会があるかもしれない。
例えば、一般家庭用センサーを開発するNest Labs(2010年設立) は、GoogleのコーポレートVCであるGoogle Venturesから2度の投資を受けた後、Google本体により2014年に買収されている。
- 現地レポート─新型コロナで一変したシリコンバレーの経済・社会・生活(2020/04/06)
- 2017年のITトレンドを占う5つのキーワード(2017/01/13)
- スタートアップの結末、ベンチャービジネスは必ずしも成功せず(2016/08/08)
- サービスエコノミーはシェアリングからトラストへ、非正規雇用の”ギグエコノミー”が拡大(2016/06/14)
- シリコンバレーはバブルから安定成長へ?! ベンチャー投資は全米の4割強を占めるも伸びは前年比7.5%増(2016/05/06)