「コーポレートVC(Venture Capital:ベンチャーキャピタル)」による投資が活発になってきた。優れた先進技術を独自に開発しているスタートアップ企業に資金を投じ、自社の製品/サービスに適用する。オープンイノベーションの波が背景にあるものの、キャピタルゲイン(Capital Gain:投資金利益)を得るという狙いも強い。
コーポレートVCは単独で投資するわけではない。他のVCに交って投資する。先のGoogle Venturesは、個人タクシーの配車サービスを提供するUberに、次のような形で2度、投資している。まず2013年に、他のVC2社と共同で計2億5800万ドルを投資。翌2014年には合計12億ドルを投資するために他のVC7社と組んでいる。
複数のコーポレートVCが、1つのスタートアップ企業に投資することもある。例えば、HadoopディストリビューションのClouderaには、Intel CapitalもGoogle Venturesも投資している。ドキュメントデータベースの開発会社であるMongoDBには、Intel CapitalのほかSalesforce Venturesも投資している。
コーポレートVCも目指すのはエグジット
ベンチャー投資を受けている間のスタートアップ企業は、いわば幼児期である。そこから成長できれば、証券取引所で自社株を売り出し、潤沢な資金を得て公開企業になる。これがIPOだ。
あるいは既存の大手企業に会社を買収してもらう。すなわちM&A(企業の統合・合併)である。IPOにせよM&Aにせよ、コーポレートVCからみれば、彼らがエグジットすれば投資金の数倍の利得が得られるだけに、コーポレートVCも、オープンイノベーションを旗印にスタートアップ企業に投資するのである。
Googleの投資先におけるエグジットの主な例を表3に示す。なかには、自分で投資した会社を数年後に買収したケースもある(表3の水色セル)。Intel Capitalの投資先では1280社のうち、200社以上がIPOを果たし、325社がM&Aの対象になっている。

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日本でも大手企業のコーポレートVCをいくつか耳にする。だが、その活動はあまり公開されていないのと、スタートアップ企業への投資数は少ない。
大企業や大組織からイノベーションが生まれないことは万国共通だ。Googleもいまや従業員5万人の大企業。イノベーションを求めてスタートアップ企業に積極的に投資しているのである。日本でも、ベンチャー精神の基本を理解し、コーポレートVCをはじめとするスタートアップ企業への投資や支援の仕組みをもっと促進すべきだろう。前回も紹介したが、シリコンバレーの合言葉は「Small is Possible」である。
筆者プロフィール
山谷 正己(やまや・まさき)
米国Just Skill, Inc.社長/名桜大学客員教授/IT Leaders米国特派員
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