ジュピターテレコムは、ケーブルテレビ「J:COM」を運営する有線テレビ事業者だ。同社はテレビ事業に加えて、インターネット事業や電話事業を全国74局で展開、498万もの加入世帯数を抱える国内トップのケーブルテレビ事業者となっている。営業活動の訪問件数が1カ月12万件にも上るという同社は、その支援ツールの作成に長年苦慮してきた。営業マン目線で作成し、2015年1月にリリースした「J:Navi」は、苦労の末に到達した営業支援ツールの決定版として活用されている。
J:COMの営業推進部は、全国のトップセールスマンで構成されている伝統の部隊だ。日夜、営業手法の開発やコンサルティング、数字改善のための対策構築などを行っている。そんな営業推進部の重要な役割のひとつに「営業支援ツール」の開発がある。
J:COMが提供されている地域の住民であれば、同社のロゴをあしらった軽自動車が町中を走り回っている姿をよく見かけているはずだ。全国で3000名を超える営業マンが、月間12万件もの家を訪れて営業活動を行っている。
これだけの数の営業マンがいると、手法も力量も千差万別なのは仕方ない。しかし、加入者数の増加は、営業マンの頑張りにかかっており、皆がある程度以上の力量を持ち加入率を上げる必要がある。営業支援ツールは、営業力を底上げするために必須のアイテムとして、長年開発に取り組んできたもので、営業推進部にとっては悩みの種のひとつだった。
2011年の地上デジタル波完全移行という最大のビジネスチャンスに向けて、衛星放送やケーブルテレビなどによるユーザー獲得競争が激化していた2009年、J:COMでは更なる営業力強化に向けて営業手法の改善に取組むことにした。いよいよ営業支援ツールの必要性が増したこの時期に営業推進部が作成したのが「三波(さんぱ)ツール」だ。
「三波ツール」は、ケーブルテレビの仕組みやJ:COMが提供できるサービスのチェック表、ケーブルテレビで見ることができるコンテンツの一覧、料金プランなどを4ページにまとめてパンフレット化した「紙」の営業ツールだ。
この「三波ツール」、当時の全48局(2014年にジャパンケーブルネットを統合し現在は74局に)に一斉普及を図る予定だった。しかし、「とにかく営業マンが使ってくれなかった」と振り返るのは、営業推進部営業推進グループ グループ長の高田康二氏だ。特に職人肌の営業マンには「白い紙の方が営業し易い」という考え方が根強く、なかなか受け入れてくれなかったという。実績を上げているだけに、無理強いすることもできない。
そこで、営業のエキスパート集団である高田氏ら営業推進部の取った方法は、自らが各局を訪れて実際に三波ツールを使って成約して見せるという荒業だった。各局でスピーカーとなる可能性の高いトップセールスマンと連れ立って客先に出向き、三波ツールを使った営業をして見せた。「各局のトップセールスマンよりも契約を取ってみせなければならないので、プレッシャーは大きかった」という。
いざ契約を取って見せると、目論見通りスピーカーが「1回使ってみようか」となり徐々に浸透していった。この活動を約2年間かけて全48局で行った。その甲斐あって、期限の2011年までには、ほぼ全ての営業マンが三波ツールを使うようになった。
紙ツールの電子化を図るも大失敗
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三波ツールの一方で進行していたのが、コールセンターの問い合わせ内容を営業に連携するタブレット用の業務支援ツール「ジェイボウズ」プロジェクトだった。これで営業マンがタブレットを携帯するようになったため、そのタブレットで使えるよう三波ツールの電子化を図る新たなプロジェクトがスタートした。三波ツールの4ページをそのままタブレットで表示できるようにしたものだったが「これが大失敗だった」という。
営業マンからは「紙に比べて使い勝手が悪い」という声が一斉に上がった。三波ツールに書き込みが行えるよう、お絵描きツールも搭載したが、「ペンのタッチが悪い」と評判は散々で、結局企画倒れに終わった。
そんな中、せっかくタブレットを使うのならと、タブレットをアンドロイドからiPadに刷新することになった。iPad導入にあたっては、新たに申込書を電子化する「J:Pad」プロジェクトもスタートした。しかし、三波ツールの電子化に失敗していた営業支援ツールをipad向けに作り込もうという話は起こらなかった。
ところが、牧俊夫社長から「iPadを使って苦しんでいる営業マンを助けてやってくれ」と営業推進部にはっぱが掛けられた。そこで心機一転、営業支援ツールの電子化に再チャレンジすることになった。
次のプロジェクトに進む前に、同じ轍を踏まぬよう、まずは前回の失敗の原因の洗い出しを行った。前回の、三波ツールの電子化に関しては、情報システム担当主導で行われており営業が係わっていなかった。この工程に問題があったのではと考えた営業推進部では、今度のプロジェクトは自分たち主導で行うことにした。
新プロジェクト立ち上げに際し、たまたま「トップ同士のつながり」から紹介されたのがドリーム・アーツだった。「上からの紹介」ということで、特段の思い入れもなしに臨んだドリーム・アーツからの最初のプレゼンテーションだったが、ここで高田氏は「ショックを受けた」という。
ドリーム・アーツが提案したのは、同社のタブレット向け営業改革ソリューションの「YUKARi」だ。タブレットを使った営業活動の支援に特化した製品で、デザインから運用までをドリーム・アーツが一気通貫で提供する。
プレゼンテーションでは、別業種のユーザー向けに提供されていたコンテンツをベースに作成した、モックアップバージョンをタブレットで見せられた。その立体的な動きと、J:COMが大切にしている「営業のストーリー」を一連のMapで再現してみせる蒔絵のような表現方法に感銘を受けた。
実をいうと高田氏は「本当にお客様に見てもらえるのか」と、タブレットを使うことに対して「懐疑的な見方をしていた」という。ところが、このプレゼンテーションを見て、その考え方が吹っ飛んだ。「これなら使える」と確信したという。
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