[CX(Customer Experience)デザインの基礎知識]

CXをシステムに落とし込む「サービスブループリント」とアーキテクチャー設計【第6回】

2016年9月26日(月)飯塚 純也(ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 本部長 サービスデザイナー)

CX(Customer Experience:顧客体験)を最適化するための「サービスデザイン」。これまで、「自分たちの顧客は誰か」を明らかにし、「顧客体験」を可視化するためのツールとして、「ペルソナ」「ステークホルダーマップ」「カスタマージャーニーマップ」を紹介してきました。こうしたプロセスを経て初めて、具体的な課題解決策の模索や絞り込みが可能になります。今回からは、ITを用いて課題解決を進めていくためのデザイン手法について紹介していきます。

 サービスブループリントは一見、CJMに似ています。ですがCJMは、顧客の行動や心理にフォーカスし、CJMを改善するための課題を可視化するツールです。これに対しサービスブループリントは、顧客の行動に合わせてフロントエンドやバックエンドのスタッフやシステムが、どう連携して動くかを明らかにするためのツールになります。ビジネスとしての成果をより良くしていくための設計図ですから、実際の効果(ビジネスインパクト)を数字で示していくことも大事です。

 例えば、「コールセンターのコールが多すぎる」という課題があるとしましょう。CJMを作成しサービスの現状を俯瞰した結果、顧客はコールセンターに電話を掛けたくてかけているのではなく、Webページでの解決率が低いことが原因だと分かりました。そこでFAQページの内容を見直し、セルフサービスでの解決率を高めることでコール数を減らす施策を採ることになりました。このとき、その施策によって、どれだけコール数が減るのか、それに伴って、どれだけコスト削減や生産性向上が図れるかを数字で示すのです。

他業界・他業種が実施しているサービスを刺激剤にする

 ビジネスセッションのゴールは、サービスブループリントの作成です。一般的には半日程度で完了します。セッションの多くは、実際のユースケースに沿って進めます。ユースケースがないと参加者のイメージが湧きづらく、セッション全体がしばしば停滞してしまうためです。

 ユースケースとしては、まず競合他社のサービスが考えられます。ですが、それだけでなく、将来像として「こういうカスタマージャーニーを実現した」という他業界や他業種のサービスもヒントにします。例えば当社が実施するセッションでは、全世界に約5000社ある顧客企業の事例をベースに、他業界・他業種での取り組みから創造性を刺激しながら、どういうポイントを適用したらよいかを考えたりしています。

 セッションの参加者については、顧客接点ごとに必要なデータを持っている人が参加することを重要視する必要があります。決裁者や経営層が、あらゆる情報を持っているとは限りません。また顧客接点ごとにシステムが分断されているなど組織上の問題もあります。

 最も大事な点は、第1回でも指摘した「横の連携」であり、セッションを「顧客視点」「全体最適」で進めることにあります。ファシリテーターは、部門固有のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)や業務視点は排除し、参加者が全体最適を考えるように“場”を切り盛りしていかねばなりません。

システムはサービス提供のための“仕組み”

 続くテクニカルセッションでは、ビジネスセッションで作成したサービスブループリントをもとに、システムやサービスのアーキテクチャー設計と要件定義を実施します。IT部門が中心になるセッションだと言えます。

 サービスブループリントは例えば、「来店前にWebを見ていたお客様に対し、モバイルアプリケーション宛に店舗で使えるクーポンを送る。あるいは店舗スタッフが本日のおすすめ情報をご案内する」といった一貫して適切な対応ができるためのシステム開発を求めてくるでしょう。

 しかし、こうしたシステムのアーキテクチャーを考え始めると、減価償却期間やシステム更改期など、業務部門の都合とIT部門の都合がぶつかることがあります。電話交換機などのように、一度購入したら次の更改は5年後、10年後ということが当たり前なシステムがあるからです。

 その時は、ファシリテーターが間に入り「ここは資産として残す、ここは新しくする」というように整理していきます。この際、最も重要なことは、システムは“設備”ではなく、あくまでも顧客にサービスを提供するための“仕組み”であることと、そこでは柔軟性が求められることへの理解です。設備は基本的に、ずっと変わらずに所有することになりますが、お客様の振る舞いは明日、変わるかもしれません。

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