[CX(Customer Experience)デザインの基礎知識]

CXをシステムに落とし込む「サービスブループリント」とアーキテクチャー設計【第6回】

2016年9月26日(月)飯塚 純也(ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 本部長 サービスデザイナー)

CX(Customer Experience:顧客体験)を最適化するための「サービスデザイン」。これまで、「自分たちの顧客は誰か」を明らかにし、「顧客体験」を可視化するためのツールとして、「ペルソナ」「ステークホルダーマップ」「カスタマージャーニーマップ」を紹介してきました。こうしたプロセスを経て初めて、具体的な課題解決策の模索や絞り込みが可能になります。今回からは、ITを用いて課題解決を進めていくためのデザイン手法について紹介していきます。

アーキテクチャー設計で重要なレイヤリング

 柔軟性の確保で大事になってくるのが、「レイヤリング」の考え方です。システムは今、「SoR(Systems of Record)」と「SoE(Systems of Engagement)」に分けられると第1回で紹介しました。SoRは、会計や注文、在庫管理といったトランザクションや顧客情報など定型的なデータを記録するレガシーなシステムです。ERPやCRMあるいは電話交換機などです。これに対しSoEは、顧客接点ごとにリアルタイムに変化する会話やWebでの行動履歴など非定型データを扱います。

 レイヤリングでは、SoRをベースレイヤー(基盤層)に位置付け、その上に、マーケティングやコールセンターなど、CXを高め顧客とのエンゲージメントを強化するためのシステムを構築していきます。堅牢性が求められるSoRはそのまま残し、ビジネスセッションでデザインしたSoEは更改サイクルを短くできるように構築するという設計手法です。

 レイヤリングの考え方は、アプリケーションなどをコンポーネント(部品)化し、それらを組み合わせてシステムを構成する「SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャー)」に則ったものであり、そこで重要な役割を果たすのが「API(Application Programming Interface)」です(図3)。

図3:顧客とどうつながり、どういうサービスを提供するかをSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャー)で設計していく図3:顧客とどうつながり、どういうサービスを提供するかをSOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャー)で設計していく
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ロジックの確立やAPIの整備が不可欠

 コールセンターのオペレーターは、顧客からの電話に対し様々なデータを参照しながら応対します。システム的にいえば、電話交換機の先に、別のシステムに接続するためのロジックが必要だということです。「顧客AはオペレーターBに接続する」「大阪在住の顧客はセンターCで対応する」など、ビジネスルールに応じて必要なシステムに連携するためのロジックです。

 「事前にメールをもらっているお客様を優先して対応する」などが、顧客対応のためのビジネスルールです。それを実現するために、電話やメール、Web、モバイル、店舗といった様々なチャネルを通じて顧客からコンタクトがあったときに誰が応対するのか、実際に応対する担当者の画面にはどういった情報を表示するのかなどを検討していきます。過去のやり取りなど履歴データを残したり参照したりするのであれば、データベースとの連携も必要になります。

 こうしたシステムのアーキテクチャー設計における最大のポイントは、SoEのためのアプリケーションのコンポーネント化とAPIによる接続です。種々のアプリケーションがAPIでつながり、オーケストレーション(自動化)を図っていくことで、データソースも1つに統合しなくても良くなります。

 データベースが分散したままでもシステムが連携できれば、新しいシステムを立ち上げるときにも、データベースはそのままに、ロジックとしてデータソースを追加すれば、システムは直ぐに立ち上げられます。オムニチャネルといったサービスを短期間に立ち上げたり、新しいマーケティング施策をスピーディに展開したりといった事業部門のニーズに応えられるというわけです。そのためには、既にどんなシステムが稼働しており、どんなデータソースがあるかを全社規模で把握しておかねばなりません。

 いかがでしたでしょうか。第1回から今回までで、現在の企業経営に欠かせない要素であるCXをどのように企業文化として取り入れ、デザインし、それを具現化するためのITシステムをどのように設計していくべきかを考察してきました。

 最終回となる次回は、アジャイルやリーンといったサービス開発手法や、AI(Artificial Intelligence:人工知能)をはじめとする最新テクノロジーを活用することで、IT部門の役割が、どのように変わるのか。そして、そこから生まれる”これからのCX”の姿について紹介します。

筆者プロフィール

飯塚 純也(いいづか・じゅんや)

飯塚純也(いいづかじゅんや)

ジェネシス・ジャパン コンサルティング本部 本部長 サービスデザイナー。上質なCX(Customer Experience:顧客体験)を通じて企業が、より良い顧客サービスをいかに提供できるかを考え、その方法を提案している。コンタクトセンター業界で15年以上にわたり、システムエンジニア、エヴァンジェリスト、コンサルタントなどの職種を経験。多彩な経験を元に、コンタクトセンターやCX分野のサービス設計に注力し、企業における顧客価値向上に取り組んでいる。コンタクトセンター業界誌への連載や講演を通しても、分かりやすく解説している。

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