[ザ・プロジェクト]
マンマシンシステムと国内最大級のデータセンターがサービスの肝─セコム
2017年3月28日(火)佃 均(ITジャーナリスト)
「攻めのIT経営銘柄2016」にセコム(証券番号:9735)が選定された事由は、自律型の小型飛行監視ロボット「セコムドローン」と総延床面積24万平米のデータセンター。情報システム担当取締役(CIO)で人事本部長も兼ねる泉田達也氏は、「いまさらデータセンターか、と仰る方もおられますが……」と苦笑する。マンパワー依存型警備からセンサーによるシステム警備、セキュリティから防災、見守りへの転換は、ITなしには成し遂げられなかった。ロボットやビッグデータやAIの研究開発など、「ベンチャーのDNAは失っていません」と言う。
1966年にオンラインサービス
泉田氏の名刺には、「取締役人事本部長 情報システム担当」とある。当初は「人事本部長」だったが、2016年の4月に「情報システム担当」の肩書きが追加された。
「実は当社のITはセコムトラストシステムズという子会社が担っていまして、2016年の3月末まで私が社長を務めていました。しかしクラウドやIoT(Internet of Things)、ビッグデータの時代、ハード/ソフト/サービスを一体で研究開発から運用まで、統括して全体を見ないといけないよね、ということになったんです」
2016年の4月まで、本社に情報システム部門がなかったとは意外だった。
現在は本社の情報システム部門が全体の企画立案と部門間調整、セコムトラストシステムズ(林慶司社長、2016年3月期の従業員946人)が実行部隊という位置付けだ。
セコムの創業は1962年の7月7日。七夕の日には何かいわれがあるのだろうにしても、今回の主題ではない。だが戦後17年、第1次ベンチャーブームの火付け役の1社だった証左ではある。そしてあまり知られていないことだが、日本初のオンライン・セキュリティシステムを開発したのがセコムだ。
「1966年にセンサーと50bpsの電話回線でSPアラームというオンラインのセキュリティサービスを始めたのが、今でいうIT利活用の最初でした」泉田達也氏は言う。
50bpsとは、通信回線を使って1秒間に伝送できるデータ量の上限が50ビットということ。Wi-Fiでギガ(10億)単位の通信が可能な現在では想像もできない。さらに当時は通信回線の利用が厳しく制限されていた。通信回線の利用が中小事業者に限って自由化されたのは1982年、全面的に自由化されたのはその3年後の電気通信事業法、日本電信電話公社の民営化がきっかけだったから、とてつもなく早い。
「早すぎましたね。なかなかお客さんがつかない。鳴かず飛ばずだったのですが、1969年の108号連続殺人事件でいっぺんに認知されました」
米軍基地から盗んだピストルで、当時19歳の少年が東京、京都、函館、名古屋で次々に殺人を犯した。東京・千駄ヶ谷の専門学校に侵入した際の、SPアラームの警報が逮捕のきっかけとなった。これだけでなく、東京オリンピック、テレビドラマ「ザ・ガードマン」、大阪万博などが“追い風”になったのは言うまでもない。
それを境にオンライン・セキュリティシステムの契約件数はうなぎ上りに増加し、2016年12月末現在は法人102万件、個人118万9千件。警備員の緊急発進拠点が全国に約2800カ所ある。
自走式+認識技術で広域をカバー
「昔は工場とか学校に、宿直の人が必ずいましたよね。当社はそれをセンサーとネットワークに置き換えてきました。というのは、いつまでもマンパワー依存では付加価値がないし、競争力を高めることもできないと考えたからでした」
今でいうIoTに取り組んだのは50年も前、オンライン・セキュリティシステムを小規模な事務所や戸建て住宅、マンションに広げ、携帯電話の普及を背景に子どもやお年寄りの見守りシステムを開発、自走ロボットや飛行ロボットの研究開発に着手したのは2000年に入るころだった。
「ロボット、ドローンがそれほど世の中に普及していなかったころでした」
なるほど、警備員による巡回警備でホテルやショッピングモール、イベント会場などへの不法侵入を監視するには、多くの人員が必要となる。敷地が広大なだけでなく、死角が多いためだ。ならば監視カメラではどうかというと、膨大な数のカメラが必要でコストがかかってしまう。昨年5月の伊勢志摩サミットや今年2月の東京マラソンのように、期間が限られたイベントの場合、どうすればいいか。
セコムは、高精度な3次元立体地図によるセキュリティプランニングシステム「セコム3Dセキュリティプランニング」を開発した。
「グループ会社に、地理空間情報サービス・測量のトップ企業のパスコと言う会社があります。パスコの3次元地図情報と空間情報技術、セコムのIS研究所が持っているBIM(Building Information Modeling)技術を活用しました。立体セキュリティと名付けています」
これにより、監視カメラや警備員配置の計画立案が、効率良く、的確に行えるようになったという。また、飛行船や気球に搭載されるカメラや地上の監視カメラからの画像情報は、画像認識技術をはじめとするAI技術に活用して、判断や対応に活かされる。ビッグデータとAIの融合が進めば、適用範囲は飛躍的に増えていく。
「年に100万人ずつ人口が減る、多様な働き方が求められる時代です。なおかつ超高齢社会で、自然災害が多発しています。セコムの守備範囲は警備だけでなく、防災や地域の安全・安心、介護・福祉、医療といった領域に広がっています」
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