JR東日本がビジネスモデルの変革に取り組んでいる。これまでの「駅から駅へダイヤ通りに輸送する」スタイルから「ドア・ツー・ドアでの移動と、需要に応じた臨機応変な列車運行」へと新たな移動サービスの創出を目指す。そのためにIoTやビッグデータ、AIといったテクノロジーの活用に注力する。同社が取り組む技術革新と次世代のモビリティとは具体的にどのようなものか。同社執行役員 総合企画本部技術企画部長 兼 JR東日本研究開発センター所長の横山淳氏の講演から紹介する。
JR東日本(東日本旅客鉄道)は2016年11月、「技術革新中長期ビジョン」を作成、これをテコにビジネスモデルの変革を目指している。同ビジョンの中身について、同社執行役員 総合企画本部技術企画部長 兼 JR東日本研究開発センター所長の横山 淳 氏が、「データマネジメント2017」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム=JDMC)に登壇し、『IoT、ビッグデータ、AI等による「モビリティ革命」の実現に向けて〜JR東日本の「技術革新中長期ビジョン」』と題して講演した(写真1)。
第4次産業革命を迎え中長期ビジョンを危機をもって策定
鉄道は、第一次産業革命の時代から第3次産業革命の時代に至る140年間、日本の発展を支えてきた。だが横山氏は「デジタル化による第4次産業革命が到来している中、鉄道事業は、これまでの延長線では立ちゆかないだろう」との認識を示す。そうした危機感を元にまとめられたのがJR東日本の「技術革新中長期ビジョン」だ。20年後を見据えてビジネスモデルを変革していくためのべースになる技術革新の内容と、その領域を定めている。
技術革新中長期ビジョンは、(1)安全・安心、(2)サービス&マーケティング、(3)オペレーション&メンテナンス、(4)エネルギー・環境の4本柱で構成されている。この中で「技術革新中長期ビジョンの本命」(横山氏)に位置付けられるのが、2番目の「サービス&マーケティング」であり、次世代のビジネスモデル創出を狙う。テーマは「お客様へ“Now、Here、Me(今だけ、ここだけ、私だけ)”の価値の提供」である(図1)。そのために(1)顧客の家から目的地の例えば宿泊先までをカバーする“ドア・ツー・ドア”のサービスと、(2)状況に応じて臨機応変に列車を運行させること、などを実現する。鉄道の、これまでのビジネスモデルは「駅から駅までダイヤ通りに走って客を輸送すること」(横山氏)だった。
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「駅起点、ダイヤ通り」から顧客の移動ニーズに合わせる
横山氏によれば、ドア・ツー・ドアのサービスモデルとしてはドイツ鉄道の取り組みが先行している。ドイツ鉄道が開発・提供する「DB Navigator」というスマホアプリでは、顧客が「現在いる場所と行きたい場所を入力すると、都市鉄道から高速列車、路線バスへの乗り換えを含めたルートを案内してくれる」(横山氏)という。アプリからチケットを予約できるし、遅延情報もリアルタイムに届く。DB Navigatorは「1つのアプリで、鉄道を利用するお客に対しドア・ツー・ドアのサービスを提供する機能を持っている」(同)。
JR東日本もスマホ用アプリは複数提供している。ただ「JR東日本アプリ」が提供しているルート案内の範囲は、駅から駅までが現状。チケット予約も「えきねっと」と「モバイルSuica」の2つに分かれ、遅延情報などのプッシュ配信は「列車運行情報 プッシュ通知アプリ」とった具合に、用途別に分かれている。顧客が目的に応じてアプリを使い分けなければならない。横山氏は、DB Navigatorが実現しているようなサービスを「当社も是非提供したい」と意気込みを見せる。
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