「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、ふくおかフィナンシャルグループ/福岡銀行の河﨑幸徳氏のオピニオンです。
機械、電気、建築・土木、医薬、農業など、世の中には様々な技術があります。情報(通信)に関わる技術であるITも、その1つですが、他の技術とは異なる特徴があります。(1)汎用的に利用できること、(2)適用分野が広いこと、(3)急激に進化し続けていること、(4)調達~開発~運用の各プロセスがよく見えないこと、(5)効果検証が難しいこと、などです。
(1)と(2)は、FinTech、ManuTech、AgriTech、EduTechといった言葉が生まれていることから明らか。(3)もエクスポーネンシャルテクノロジーという言葉があるほど急激に進化していて、例えばCPUの価格性能比は過去20年でおよそ3万倍、ストレージはそれ以上に高まりました。こんな技術はほかにはありません。
これらはITのいい面ですが、その副作用なのかどうか、(4)と(5)は企業利用の観点で大きな問題であり続けています。当事者以外にはITを利用したシステムの開発過程が見えませんし、要する費用や機能が妥当なのかどうかも分かりにくい面があります。開発が終わって稼働させても、果たして想定通りに使われているのかどうかも把握できていないケースもあるでしょう。
それはITの価値の大半がソフトウェアであり、目に見えないことに起因します。例えば社用車を購入する場合を考えましょう。メーカーや車種、価格を比較して最適な車種を適正な価格で調達できます。その効果もある程度予測できます。移動時間の短縮による営業時間の拡大、訪問先数の増加による売上向上などをKGIとして設定すればいいからです。稼働距離数やガソリン消費量、利用日誌などによる稼働率などをKPIにすれば、利用実態をモニタリングすることも可能です。このように調達から利活用状況、さらには投資対効果の検証まで全てが透明です。
ところが「ITは目に見えない。説明しにくいのは仕方ない」と言っているのも同然。それでいいのでしょうか?筆者は違うと考えます。説明責任が求められる時代、すべからく検証可能にする必要があると思います。なぜなら日々進化するITを、適切なタイミングで適材適所で活用することは企業の生命線を握ります。そのためには経営者や事業責任者が、しっかり意思決定できる情報が必要だからです。
IT部門は経営者が最適なIT投資判断ができるように必要な情報を揃える。つまり「IT投資案件を見える化する」必要があると思う理由です。では経営者がIT投資を意思決定するために必要な情報とは、どんなものでしょうか。そしてどうやって、それを見える化すればいいのでしょうか?以下にそれを示します。
1.構築に係る投資額(調達価格)
調達する機器や開発費用の妥当性を判断するには、調達価格の比較が必須です。ATMのように同一業種でしか比較できないものもあれば、パソコンのように業種に関係なく比較できるものもありますが、ハードウェアはリストプライスもあるので、算出しやすいでしょう。これに対し開発費用は少し複雑です。人月当たりのスキル別単価やファンクションポイントを用いた開発費用の妥当性を検証しなければなりません。
重要なのは、パッケージソフトウェアの調達価格も含めて他社が調達した価格をできるだけヒアリングすることです。他社比較の結果は最適な価格で調達できていることを経営者が理解する上で説得力を持ちます。そのために日頃から、同業種はもちろん異業種も含めた人脈を築いておく必要があります。
2.投資目的(期待する効果)
IT化を求めている事業(ユーザー)部門が、IT投資を実施することで得られる効果を定性的、定量的に把握していることが大事です。特に目標とする効果を金額に換算して定量化することで、効果を見える化できます。これを実現するにはIT部門のサポートが必要であり、したがってIT部門はユーザー部門に人脈や足場を持っておかなくてはなりません。
3.投資回収期間、投資対効果の算定結果
投資目的を達成できるかを判断するためには、投資額と効果を定量的に表すことが必須となります。前述1で納得できる投資額が見積もられ、前述2で効果が金額換算されていれば、投資額の回収期間が算出できますし、投資対効果の時系列推移などを見える化でき、IT投資判断の意思決定を容易にします。
4.目的達成をモニタリングする指標
目標達成までの進捗をモニタリングするための指標も決めておけば、定期的に達成度合いを報告することも可能となり、状況に応じて経営と対策を相談することも可能となります。
以上を明らかにすることにより、経営者はIT投資案件の採択可否を判断しやすくなります。一昔前まではERPやCRMといった3文字英語を使ったり、それが「今の経営トレンドです」などと経営を煙に巻いて、IT投資を行ってきたこともあると思います。今は違いますし、そもそも生きるIT投資をしないと企業が勝ち残れません。調達から構築、運用から効果検証に至る全てのプロセスを見える化して経営と協議し、本当のIT化を実現することが、キーポイントだと確信しています。
ふくおかフィナンシャルグループ 経営企画部 部長
福岡銀行 総合企画部 部長
河﨑 幸徳
※CIO賢人倶楽部が2017年5月1日に掲載した内容を転載しています。
CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。
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