[ザ・プロジェクト]
ブラックボックス化した“複雑で大規模なシステム”をいかにモダナイズするか─日本道路交通情報センター
2017年10月18日(水)川上 潤司(IT Leaders編集部)
日本道路交通情報センター(以下、JARTIC)が、基幹業務を支える「第4次 道路交通情報システム」を本稼働させたのは2016年10月のこと。従来からのシステムの延長線上で機能強化を図るのではなく、時代変化に合わせた抜本からの“刷新”にフォーカスした開発プロジェクトの完遂は一筋縄ではいかなかったという。そこにはどんな背景があったのか。壁をどう乗り越えてきたのか。プロジェクトに関わったキーパーソンに詳しい話を伺った(聞き手はIT Leaders編集部)。
リスクを抱えることも辞さずベンダーの変更に踏み切る
─ちなみに、これまでのシステムの開発・運用体制はどのようなものだったのでしょう。
川上:0次から3次システムまでは、一貫して同じベンダーに発注し、そこがプライムコントラクターとなって開発・運用にあたってきました。更改タイミングに機能強化を図る際、いちいち細かいことを説明しなくても分かってくれるし、直前のシステムの内容も熟知しているわけですから、これはこれで良い面があったと思います。一般的に、ベンダーを変えるということは大きなリスクを伴うことでもありますから。
しかし、先にお話しした通り、テクノロジーの大きな変革期を迎えたことに照らせば、新しいアイデアとか考え方を貪欲に取り込んでいくことが欠かせません。私どもとしても、もしかすると“井の中の蛙”になっているんじゃないかという危機感もありました。保守的な姿勢のままではブレークスルーは難しいものです。
そこで、かねてからのベンダーも含め、道路交通ソリューションに強いベンダー数社にお声がけし提案を募ることにしました。“これから”を支えるシステムを完成させることが最も重要なこと。仮に、ベンダーを変えてリスクを抱えることになっても、それ以上にゲインがあると腹をくくったのです。
─その後、最終的なベンダー選定までの流れは?
川上:4次システムの具体的な検討を始めたのは2014年(平成26年)の8月でした。まずは、JARTICとして新しく追加したい機能を整理し、RFI(Request For Information)にまとめて10月までに各社にお声がけしました。情報提供頂いた6社に対して今度はRFP(Request For Proposal)を出し、そのうち提案があったのは3社です。
結論から申し上げると、内容を吟味しヒアリングをした上で発注先は沖電気工業(以下、OKI)に最終決定しました。つまり、ベンダー変更を決断したのです。契約したのは2014年の12月の終わりです。この時点で、デッドラインまで1年と10カ月。年末年始や年度末を控え、開発体制の確保という観点からもプロジェクトのスタートとしては難しい時期となってしまいました。ただでさえタイトなスケジュールであるにもかかわらず、ますます余裕はありませんでした。
OKIさんは、道路交通関係のシステムを手掛けた数々の実績があったことが決め手になりました。警察系や国交省系など、色々な組織に関わりながら最新テクノロジーを駆使した開発をこなしてきているので、これから新しいアイデアを取り込んでいきたいとする我々にとって、最適なパートナーだと感じたのです。そもそも道路交通情報とは何ぞや、といった基本をゼロから説明する必要がないこともありがたいですしね。
もっとも、ベンダー変更に伴うリスクには配慮しなければなりません。そこで、セミナーを通じて信頼を寄せたアイ・ティ・アール(ITR)に協力を仰ぎ、中村さんにプロジェクト管理をしていただく体制をとりました。2015年に入って早々のタイミングからです。後々、私どもとOKIさんとの打ち合わせにおいて、議論が白熱する場面もしばしばありましたが、常に冷静な視点で助言を頂いたことにはとても感謝しています。
ドキュメントの不備で従来システムの実態把握に苦慮
─白熱したということからすると、決して順風満帆なプロジェクトではなかったようですね。
松岡:ご推察の通りです。当初の考えでは2015年に入ってすぐに要件定義確認を終え、春先までに基本設計にメドをつけよう。そうすれば、夏ぐらいには詳細設計に落とし込めるんではないか、というイメージでいたんですが、最初からつまづきまして…。
立木:RFPに基づいて提案を募る段階において、4次システムとして「3次からこう変えたい」という部分を的確に表現したドキュメントは整っていました。私たちがそれを読み込んで咀嚼するにあたっては、ベースとなる3次システムのことも理解しなければなりません。「変化の部分」だけ見ても、やっぱりうまく解釈できませんから。
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