加古川市がデジタルガバメント/GovTechに取り組んでいる。プロジェクトは大きく2つの章で構成される。IoT技術とスマホアプリを組み合わせた「見守りサービス」が第1章、それをきっかけに本格化したオープンデータの取り組みが第2章だ。個別の取り組みだが、データ共有基盤によって部局・部署間の連携と市民目線のサービスの機運が盛り上がっている。本誌も2018年7月18日に報じたところだが、「その背景」は何で、「その後」はどう展開しているか──。第1章について同市 生活安全課 副課長の三和宏幸氏、第2章について情報政策課 副課長の多田功氏に話を聞いた。
3年がかりのGovTechプロジェクト
加古川市は兵庫県の播磨地方東部、神戸市と姫路市の中間に位置し、ベッドタウンとして発展してきた。面積は138.48平方km、人口は26万3,516人(2019年1月1日現在)。南の瀬戸内海に面した埋立地には神戸製鋼所の製鉄工場が広がり、北の飯盛山(標高216m)に登れば眼下に平荘湖を望むことができる。市名の由来でもある加古川が、東から西へ斜めに流れ、近・現代の開削を含め大小30を超す用水池が点在する。
鉄道は、JRの神戸線と加古川線、山陽電鉄の3本、主要道は海沿いの県道718号、129号、国道2号、山沿いの中国自動車道と交通の便がよい。古くは西国街道の宿場町として栄え、豊臣秀吉の軍師・黒田官兵衛と所縁が深い。取り立てて、“全国区”の名所旧跡があるわけではないが、最近は子育て世代の“住みやすい街”として評価が高まりつつあるようだ。
そんな高評価の大きな原動力となっているのが、刑法犯認知件数の低減だ。刑法犯罪とは器物破損、窃盗、傷害、殺人など、いわゆる刑事事件を指す。加古川市で2017年に認知された刑法犯罪は約2,900件。それが、2018年は2,400件ほどだから約2割の減少となっている。
それを担っているのは、市が2017年、2018年の両年度に設置した約1,500台の防犯カメラだ。現在、加古川市では「見守りカメラ」と呼んでいるが、検討を開始した当初は、世間一般と同様、「犯罪の抑止力」としてとらえていた。
背後には、兵庫県警による「地域社会と連帯した犯罪抑止対策」の推進があった。加古川市には、人目が届かない加古川の河原や用水池周辺の茂みが少なくない。その監視および小・中学生や女性、お年寄りの被害防止を狙ったのだ。
加古川市 生活安全課 副課長の三和宏幸氏にその経緯を聞いた。「2015年度末に大阪府の箕面市や兵庫県の伊丹市の事例を調査しました。箕面市はスタンドアロン型、伊丹市はネット型でしたが、両市ともビーコン(Beacon)タグを利用した見守りサービスを行っていたんです」(関連記事:何故か今熱い!進化した「ビーコン」の実力)。
これがヒントとなった。「2016年6月から7月にかけて、市内12会場で市長と市民のオープンミーティング、広報誌による市民アンケートを実施しました。そうしたら9割以上の方が賛成し、反対の方は1割もいませんでした」(三和氏)
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その後、本田技研工業や阪神電鉄など民間事業者8社を交えた「勉強会」を立ち上げたという。資料とにらめっこしながらの座学のように聞こえるが、実際は具体化に向けた検討会だった。ビーコンタグを活用したサービスの可能性を検討することや、ビーコンタグを検知する限界距離の実証実験などを行っている。半年で計7回の会合を通じて、具体的なシステム像ができていった。
それを受けて、2017年5月に個人情報保護審査会への報告(カメラが取得した個人情報の利用の制約)とパブリックコメントの実施、9月に見守りカメラ設置および運用に関する条例の制定、12月に市警察署との協定(犯罪捜査に協力する場合の条件)と、運用にかかわる環境整備が急ピッチで進められた。
「見守りカメラ」の設置は、2017年度が約900台で、小学校の通学路や学校の周辺に置かれ、2018年度が約600台で主要交差点や公園などに置かれた。費用は市の独自予算に加え、地方創生推進交付金と地域活性化事業債を活用している。電柱に「見守りカメラ」設置の看板を貼るため、2018年5月に関電サービスと覚書を締結して、3年がかりのプロジェクトは山を越えた(画面1)。
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