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[ザ・プロジェクト]

突然任された未経験のクラウド移行、しかも1人から…ファミリーマートのAWSプロジェクト秘話と教訓

2019年6月26日(水)杉田 悟(IT Leaders編集部)

基幹システムの開発プロジェクト担当が、突然、クラウド移行プロジェクトの担当に抜擢されたら──ファミリーマートが取り組んだITインフラ/システムのクラウド移行プロジェクト。これをたった1人から始めてチームを結成し、プロジェクトを推進したという“秘話”があった。同社 システム部門 クラウド推進グループマネージャーの土井洋典氏が、アマゾン ウェブ サービス ジャパンの年次イベントAWS Summit Tokyo 2019(2019年6月12日~14日開催)のセッションで、プロジェクトの経緯と得られた成果と教訓を明かした。

ファミマの業務システムが抱える2つの課題

 大手コンビニエンスストアチェーンのファミリーマートは、積極的なM&A戦略で店舗数を拡大してきた。エーエム・ピーエム・ジャパンやココストアの買収、直近ではユニーとの合併などを経て、現在は国内1万6420店舗、海外7380店舗を構えている。

 膨大な商品を扱い、サービスの多角化が進むコンビニエンスストアという業態であること、複数のM&Aを行ってきたことから、業務システムの抱える問題は大きく2点。1つは、新サービスがローンチするたびに新しいシステムを開発してきたことによるシステムの肥大化。もう1つは、M&Aのたびにシステムの最適化が後回しにされてきたことだ(図1)。

図1:ファミリーマートのシステムが抱える課題(出典:ファミリーマート)
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 ご存じのとおり、現在のコンビニは、単に商品を売るだけでなく宅配便などの配送サービスの受付や電子マネー、ポイントカードの採用など、次々と新しいサービスを打ち出している。ファミリーマートは、新しいサービスをローンチするたびに、新しいシステムをどんどん作ってきた。

 同社 システム本部 システム基盤構築部 クラウド推進グループマネージャーの土井洋典氏によると、基幹システムに手を入れて作り直したほうがよいと判断されるときでも、競争の激しいこの世界、ライバルより一刻も早く新サービスをローンチしたいがゆえに、周辺にサブシステムなどを作ってその場をしのぐということを繰り返してきたという。そのため「本来あるべき姿ではないシステムの形になっている」(土井氏)という。

 一方、数年おきに発生していたM&Aという大イベント。ここでも、イベントのたびに行っておくべきシステムの最適化作業が後回しにされてきたため、サーバーの数がどんどん膨らみ、維持管理にかかる負担が担当者の時間を奪っている状態だったという。サーバーの保守期限が切れるたびに社内の担当者やベンダーのリソースが割かれ、他にやりたいことがあってもできないという状況が続いていた。

クラウド移行プロジェクトが始動するも担当者が退職

 この状況を打開するためにファミリーマートは、ITインフラと業務システムをクラウドに移行することを決断。クラウドサービスを検討するチームは、2017年にキックオフし、複数のクラウドサービスを比較した結果、AWS(Amazon Web Services)を採用することに決めたのがその年の暮れのことだった。実はこのとき、クラウドサービスを検討するチームに、土井氏はまだ所属していなかったという(図2)。

図2:ファミリーマートのクラウド推進スケジュール(出典:ファミリーマート)
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写真1:ファミリーマート システム本部 システム基盤構築部 クラウド推進グループ マネージャーの土井洋典氏

 土井氏は、SI会社出身で、アプリケーションエンジニアや開発案件のプロジェクトリーダーを担当してきた。その経験を買われて、ファミリーマートのシステム部門では、基幹システムや店舗システムの開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーを任されていた(写真1)。

 ところが、AWSの採用が決まって、いよいよこれからクラウド移行プロジェクトが本格的に動き出そうというその時に、プロジェクトの前任者が会社を辞めてしまった。そこで土井氏に白羽の矢が立った。

 土井氏からすれば、ITインフラ未経験で従来型の開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーの経験しかないのになぜ?──青天の霹靂といったところだ。しかも、担当は土井氏ひとりきりで、他の仕事も抱えたままなので、全面的にクラウド移行に時間を割くわけにもいかない。

 そのような状況のなか、土井氏は、どのような工程を踏んでクラウド移行を成功させたのか。クラウド移行に至る3つのステップと、各ステップで行った具体的なアクションを紹介する。

ステップ1:クラウド推進組織の立ち上げ

図3:クラウド推進組織立ち上げ5つのアクション(出典:ファミリーマート)
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 「ひとりでは何もできない」と考えた土井氏がまず行ったことが、外部のリソースを活用してプロジェクトチームを作ることだった。

 ファミリーマートでは、システムの内製化はほとんど行っておらずベンダーと一緒に作り上げていくスタイルを取っていたので、外部の協力は欠かせない。自社にAWSのノウハウがまったくないので、とにかくAWSの知識がある人、現行システムの仕様や運用ルールを知っている人に声をかけてかき集めた。

 初期メンバーは、土井氏を含めて5名。他の4名の内訳はAWSプロフェッショナル2名、メインで使っている既存ベンダーのインフラエンジニア2名というものだった。この体制で、クラウド移行プロジェクトを立ち上げた。

アクション1:開発チーム、ベンダーへの方針説明会

 メンバーが決まってまず行ったのが、社内のクラウド推進組織以外の開発チームと既存のベンダー、それぞれへの方針の説明だった。「まずはクラウド前提になったことを強く認識させる」(土井氏)ことが目的で、実際に説明した内容は、オンプレミスNGのクラウドファースト宣言、クラウド導入の目的、クラウド推進組織の役割などおおまかなところだった。

 参加者の反応はというと、表立って方針についての反対はなかったものの、懸念や質問は多く寄せられた。細かい所は決まっていないのでひとつひとつに明快な回答は出せなかったが、土井氏は多くの質問が出たことを「今後の検討課題をいただいた」とポジティブにとらえた。この説明会を行ったことで、「クラウドファーストの考え方は早めに社内に浸透させることができた」という。

アクション2:プロフェッショナルサービスからのレクチャー

 次は、ガイドライン作成の工程だ。まずはAWSからさまざまなテーマをもらい、主にAWSの機能と一般的な使い方事例のレクチャーを受けた。次に、レクチャーを受けた内容について、ファミリーマートとしてどのようなルールにすればよいのかをディスカッションした。そして、ディスカッションで決まったことをドキュメントに整理した(図4)。

図4:テーマごとにレクチャー、ディスカッション、ドキュメント化を繰り返し行った(出典:ファミリーマート)
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アクション3:クラウド利用ガイドラインの作成・展開

 このサイクルをテーマごとに行っていくとドキュメントがどんどん増えていく。これをまとめてガイドラインを作成した。すべてのテーマで完成したガイドラインは、250ページに及ぶものだった。さすがに全員にこれを全部読んでもらうわけにはいかないので、社内ユーザー向け、ベンダー向けなど必要なところを切り出して40ページ程のガイドラインを作成、それを使って各所に説明していくことにした。

 ガイドラインの作成で気を付けたところは、「とにかくスピードを重視すること」だったという。いろいろなテーマがあり、大きく変えようとすると、それぞれで議論の範囲が広がってしまい、決まるものも決まらなくなる。そこで、現行のルール、スキームは大きく変更せず、必要なところだけ変更するという方針で作成した。

 監視などの共通インフラには、ついついAWSマネージドサービスや市場でもてはやされているSaaSなどを利用したくなるところだ。しかし、これを切り替えるとなると運用やインフラ整備に時間がかかってしまうため、立ち上げ時にはとりあえずオンプレミスで行こう、と割り切ることにした。

 クラウド移行に付きものなのが、セキュリティの問題だ。ファミリーマートでは、セキュリティ対策の検討範囲を小さくするため、ゲートウェイは設けないことにした。インターネットに直接接続せず、既存のデータセンターを経由するという方法をとった。

 AWS関連に関してはできる限り内製化を進めたいと考え、どこまで内製化するかを定義した。アクセス管理のIAM(Identity & Access Management)、AWSリソースの設定を評価するAWS Config、AWSアカウント管理のCloudTrail、ネットワークなどは自分たちで設定を行うことにした。

●Next:社内リソースが不足、人材調達のために声をかけたのは?

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