「経営トップがICTを理解しないので困る」「経営層はICTにかかるコストのことしか気にしない」「経営者への説明に多大な時間を使う」……。どれも事業会社の情報システム部門からよく聞く、やり場のない愚痴である。日本の経営者、特に経営トップは“ICT音痴”というのが定評になってしまっている。なぜ、そうなってしまったのか。
ICTを理解しようと、学ぼうとしない経営トップ。特に大企業ほどその傾向が強い。どうしてそうなのか? 理由は簡単で学習も体験もしてこなかったからだ。要するに無知の状態なのだ。逆に自ら学び、体験もしてきた経営者も少なからず存在し、その知恵を経営に生かし業績を上げている。顕著な例は中小企業のオーナー社長に多い。
では、多くの経営者はなぜICTを学ぼうとしないのか? 1つは専門的で理解が難しいと思い込んでいるフシがある。その障壁は技術的な専門用語にあるだろう。筆者も事業部門で部門システムの仕事を兼務するようになったときに、この用語の壁に当たった経験がある。しかし50種類くらいの用語を理解すると、それから先は分からない言葉の出現頻度が少なくなって来るので理解がとても楽になった。
もう1つはICTを学ぶ必要性を感じずにきて、“今さら”という思いがあるのではなかろうか? 経営者として日々の決裁業務や顧客対応、トラブル対応の指示、何よりも事業戦略などに追われる中で、今さらビジネス英語や経済学、会計学やマーケティングを学ぼうとはしないのと同様にICTも学ぼうとしないのだろう。
さらに、体験をする機会が少なかったために、きっかけもなく踏み出せないという思いもあるかもしれない。多くの企業経営者は経営学を学んで経営者になったわけではない。事業にかかわりながら、先輩の振る舞いを見ながら、さまざまな体験を通じて身につけた手法でマネジメントしている。ICTに関してはこのような体験に触れる機会はなかったに違いない。
経営者の職務遂行にICTの理解は必須
世代が変われば経営者もICTを体験している人材に入れ替わるかもしれない。しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではない。既存のビジネスや事業モデルに先が見え始め、デジタルをキーワードにビジネスモデルのチェンジを求めるデジタルトランスフォーメーション(DX)の声も高まってきた。時代の流れは早く、DXへの取り組みを先送りすることはもう許されない。
それに経営者が学ぶべきICTはテクノロジーではない。テクノロジーの知識はあるほうがよいが、どのように変遷してきて現状がどうあるかを概観できればよい。何より必要なのは、ICTが持っているポテンシャルであるとか経営に及ぼす影響力を理解することであり、それらは経営に直結する事柄である。
業務効率化やペーパーレスを目的にする時代はもう過ぎた。今必要なのはICTを使ってビジネスに変化を与えたり創出したりすることである。ビックデータを分析して知見を得ることも、デジタルマーケティングによって顧客の嗜好変化を知ることも経営判断に欠かせない情報である。多様な活用によってICTが経営そのものをドライブすることを知るべきである。
そんな時に経営トップが「ICTには無知です」では済まされない。なにより、ICTを知らない、うまく活用しないことが企業価値を毀損するリスクがあることを認識しなければならない。当然ながら取締役の業務を監査する役割の監査役も、ICTを知らなければ職務を果たせない。日本監査役協会でも「監査役に期待されるITガバナンスの実践」をレポートで示している。経営者や監査役に求められる役割がわかりやすく解説されている(図1)。
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