[木内里美の是正勧告]

コロナ後に目指すニューノーマルとデジタル社会、それは変革の好機だ

2020年6月18日(木)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

コロナ禍が長引くにしたがって、コロナ後の社会についていろいろ語られるようになった。そのなかでも目立ってきたキーワードであり概念が「ニューノーマル」ではないかと思う。しかし、これは今回のパンデミックで生まれたものではない。2003年頃のITバブル崩壊、2008年前後のリーマンショックを含む世界金融危機など、経済的な危機に伴って取り上げられてきた。社会的な大きな異変が起こると、人々の価値観や生活観に影響を及ぼし、元のようには戻ることなくその環境が常態化していくという概念である。

ニューノーマルはどう進むか

 5、6年前から適切な経済成長速度と健全性を求めて、ニューノーマルという概念を「新常態」と称して使ってきた中国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対処を通じて、新たな新常態を探っている。コロナが蔓延した社会やその後の社会へ向けて最新デジタル技術を活用した試行錯誤にも取り組んでいる。健康コードという市民の健康状態を色で識別する行動管理や飲食店での配膳をロボットが行う非接触型の日常が常態の社会になりつつある。

 日本でもコロナ禍に対応すべく、専門家会議の提言を受けて「新しい生活様式」をまとめて国民に向けて公表し、日常生活に取り入れるよう要請している。次の4つの項目が示されている(画面1)。

①一人ひとりの基本的感染対策:ソーシャル・ディスタンスやマスク常用、手洗い励行など
②日常生活を営む上での基本的生活様式:3密の回避、咳エチケット、換気、健康チェックなど
③日常生活の各場面別の生活様式:買い物、公共交通機関、食事、娯楽などでの留意事項
④働き方の新しいスタイル:テレワーク、時差通勤、オンライン会議など接触機会の低減

画面1:「新しい生活様式」の実践例(出典:厚生労働省)
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 地域的な感染状況の違いにかかわらず、それぞれが当たり前の日常になりながら経済活動が徐々に再開されている。同時に、新しい生活様式が組み込まれた働き方のスタイルが広がるなど、コロナ禍は労働環境を一気に変えた。在宅勤務中心で、必要な時にオンラインで会議をすれば大方の仕事が出来ることも確認できた。「このワークスタイルの方がいい」、「元に戻りたくない」と考える人たちは案外多い。それが自然な姿のニューノーマルなのだろう。

変化する生活感や社会構造

 COVID-19の終息が遅くなるほど、制約のある生活や人と人との非接触を基本とする生活が日常になる。特段の意識をしなくとも新しい生活様式が定着していく。それが人々の意識を変え価値観や生活観を変える。長期の在宅勤務を機に、地方の実家に戻った人も少なくない。田舎のよさや日常的に触れられる家族の良さを再認識したことだろう。景色や澄んだ空気に気持ちも癒され、Uターンや移住の肩を押すかもしれない。

 たまたまだが、筆者が山梨県北杜市で乗車したタクシーのドライバーが東京からの移住者だった。遠くに山並みの見えるこの地が気に入り、移住してきたという。話を聞くと、東京で同じ仕事をしていた頃からすれば収入は7割になったが、住居費や物価が安いので経済的な悪影響はない。何より時間に追われるような生活から解放され、目にやさしい景色や清澄な空気の中で暮らし始めたら、高血圧も高脂血症も不整脈もなくなり体調がすこぶるよいという。移住していいことばかりだと話す笑顔の表情は、人柄まで穏やかにしているように感じた。

 ニューノーマルが定着する中で、地方が注目されていくと思う。都会の魅力よりコロナが晒してしまった都会の住み難さが、人々に影響を与える。仕事が溢れていた東京から仕事が消え、生活苦を味わった学生や若者たち。在宅勤務を経験して、もう満員電車での長距離通勤などしたくなくなった給与所得者の人々。社会を構成する多くの人の心に、都会から地方への目が向き始めているように感じる。

 企業でも、新しいワークスタイルをコロナ後も続けようとする動きがある。事務所経費と通勤費が意外に大きいことに気づき、例えば事務所フロアの一部を解約する動きが出ている。業種によっては本社を地方に移す動きが数年前から出ていたが、それも加速されるかもしれない。東京には営業事務所があればいい。生活スタイル、仕事のスタイル、都市の構造、国土の構造など、数10年かけて変わっていくものが数年で変化する。それがニューノーマルなのだ。

これまでの常識が見直される。ニューノーマルで地方の時代が改めて到来する

●Next:今、日本社会はデジタルシフトの好機を逃すわけにはいかない

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